DONUT


2024.12.24 upload

Loupx garoux(ルー・ガルー)『暗野』
ニイマリコ インタビュー

アルバムができたことで、何がしたかったかと言えば「これがしたかったんだ!」って――ニイマリコ

2024年2月、DONUT MOOKとして刊行した高橋浩司・著『ぼくはザ・クラッシュが好きすぎて世界中からアイテムを集めました。』の出版記念イベントが3月に下北沢CLUB Queで行われた際、クラッシュのナンバーを歌うニイマリコに初めて出会った。そのステージがとてもよくて興味を惹かれ、さっそく「DONUT 16」のインタビュー企画に登場してもらった。好きなものについてを語り尽くすそのページでは、デヴィッド・ボウイ、ボビー・ギレスピー、水木しげるに橋本治といったニイマリコの血肉となっているものへの愛とリスペクトが炸裂した。そのとき、同じように好きなもののひとつとして紹介してくれたのが、自身のバンド=Loupx garoux(ルー・ガルー)だ。もともとニイマリコは2005年よりロックバンド HOMMヨ(オム)のギター&ボーカルとして活動していたが、2020年の活動休止に伴いソロ始動。その後、ニイマリコのソロプロジェクトであり、バンド形態で演奏する際の合奏隊、Loupx garouxとしてニイマリコ(vo&gt)、YURINA da GOLD DIGGER(dr&vo)、okan(ba&vo)、Romantic(pf&syn&vo)の4人が2022年末にそろい、2023年5月からライブ活動をスタートした。以降、果敢にワンマンライブにも挑み、バンドとしての音作りを試しながら、ニイ自身はより歌と向き合うことを意識した。ライブを経るたびにその進化と深化の度合いは増していき、そうしてLoupx garoux名義初となるフルアルバム『暗野』が誕生した。音はもちろん歌詞の細部にまで思考を張り巡らせ、ボーカリストとして貪欲に挑んだニイマリコの歌の凄みはもちろん、YURINAとokanによるドスの効いたリズムと多彩なコーラスも、Romanticが仕掛ける豊潤なアレンジも冴え渡っている。ブラックミュージックやインダストリアルを取り込んだサウンドメイクとニイマリコの歌との相性が実によく、ニイ自身の感情が強く浮かび上がってくる。このインタビューは10月13日に新代田FEVERで開催されたワンマンライブを受け11月9日に行ったものだが、ちょうど昨日12月23日に見た年内ラストのライブでは、アルバムの楽曲群はすでに新たな表情をまとって新曲とともに4人のグルーヴが渦巻いていた。さらなる躍進に期待が募るバンド、Loupx garouxをぜひ知って欲しい。ちなみにタイトルの『暗野』は、彼女の敬愛する作家・橋本治の小説からとられている。

●取材=秋元美乃



暗野〜解剖/Loupx garoux

■1曲目の「暗野」はダークな少年漫画みたいなイメージです


―― 10月の新代田FEVERでのワンマンは、夏に渋谷WWWで行ったワンマンのときよりもバンド感が強まった印象を受けました。

ニイマリコ あのライブは今までで一番完成度が高かったねって、みんなとも話しているんです。WWWは(客席に角度がついているので)お客さんの目線を見上げるような感じで、舞台側からだと緊張感のある視界なんですよね。対してFEVERはいわゆる演者が客席より高いステージに立って、っていう慣れてる光景だったからとか、そういうのもあるのかなと個人的には思います。私はまだ緊張するというか、センターでボーカリストとして前に出るのが慣れていないというのが、どうしても拭いきれないところはあったんですけど、FEVERのときに一山越えた感触は確かにあります。

―― アルバムのレコーディングを終えたことで、バンドとしてのまとまりが出たのも大きいでしょうね。

ニイ それはすごくあると思います。やっぱりWWWのときはレコーディングも終わっていなかったので「暗野」という曲も初披露だったんですけど、できたばかりで、練習もほとんどできてない状態で。贅沢なチャレンジをしたところからFEVERに向かえたので、そこで当たり前のことをやったら当たり前のレベルがちょっと高くなった、みたいなことかもしれないです。

―― MCなし、アンコールなし、潔いステージでしたね。

ニイ それは初回から守っているんですよ。今のところの取り決めというか。

―― そこにこだわりが?

ニイ どうしてもアンコールとなると、それまでで作り上げたライブの世界観を壊しちゃうような気がして。ロックバンドっぽいラフなかっこよさを、ある意味、排除しているところがあるんです。本編で全部出し切ってるんだぞ、と。ありがとうとか、そういうご挨拶程度のことは言ったりしますけど。ちょっと気を抜くと、私は照れちゃってフニャフニャしそうなんですよ。だから、あえてアンコールやMCは全消しを選んでいます(笑)。

―― そうなんですね(笑)。この間のライブでも今回のアルバムでも感じましたが、ダークなのにポップ、クールなのにあたたかい、という二面性や異質なものの融合が際立つバンドや音楽性だと思います。それはバンド名の「Loupx garoux=狼人間」にも表れていますが、そういう面を自分たちではどう捉えていますか?

ニイ Romanticさんはプロフェッショナルとして、本人もテクニックはあるし演奏の完成度に対してシビアなタイプではあって。対してアイデアと雰囲気でやってきた自分の音楽にどうアプローチしてもらえるかっていう(笑)。“完成度”にもいろいろあると思うんですけど、こと最近のポップスは何秒に1回「あ、すごいね! あ、すごいね!」っていうのが続いて、かえって窮屈な音楽が多いような気がしていて。例えばアナログレコーディングからデジタルに移行するときも批判はあったわけだし、「昔はよかった」とか言いたいわけじゃないけど、聴く人の耳もやる人のハードルも、人間がやらなくていいようなプログラミング的なものに快感がいくようになってないかと。それに対するカウンターの気持ちが自分にはあるんです。YURINAさん(YURINA da GOLD DIGGER)をドラムに誘ったときも、私の前回のソロアルバムを聴いてくれて「緻密な音楽をやっててすごいなと思っていたのに、なんで私を誘うのか? 全然ちゃんと叩けないのに」みたいなことを言ってたんですね、自分のことを過小評価しすぎだと思いますけど(笑)。ベースのokanさんもアレンジによっては、当初の想定より難しいことをやるハメになったり……。でもそれでいいんです、ふたりにはガッツがあって、音楽と親和性が高いと私は思っています。

―― 技術的なうまい、へたじゃないということですね。

ニイ 暗くてクールな音楽となると緻密さみたいなものが求められがちだと思うんですけど、でもそんなことはないだろうって。というのも、ざっくりな言い方ですが昔のニューウェーブの音源とか生音! 隙間!って感じの音だけど、ひやっとしてクールな印象を受けますよね。例えばジョイ・ディヴィジョンとか、言ってしまえばプレイヤーとしてはへたくそな分類じゃないですか(笑)。カリスマだけでなく、録音の仕方や作曲の工夫によって、あんなおどろおどろしくも美しい音楽になっていたわけで。そういうことをもっと現代的なタッチでやってみたいというのが、最近まとまってきた感じはします。アルバムができたことで、何がしたかったかと言えば「これがしたかったんだ!」って。だからクールだけどあたたかいと言ってもらえるのは正解というか、「私もそう思う!」みたいな。何を目指してやっていたか、完成したアルバムを聴いてわかりました。

―― そういう手応えがあるんですね。

ニイ 狼っていうのも、野蛮だったり悪者だったりしますけど、当の狼自体は少数精鋭で、仲良くファミリーを築くような優しい動物だったりもするんですよね。地方では神様になっていたり。悪役か神様かどちらかになっている不思議な動物で。漢字を見ても、獣偏に良いと書いて「狼」じゃないですか。

―― ほんとだ。

ニイ 良い獣なんですよ。自分はずっとそういう世界観が好きなんだなと。Romanticさんのアレンジを、彼の想定したレベルまでやろうとしても私たちの今のスキルでは絶対に無理なんですよね。だから彼は段階的に視線を低くするしかなくなってくるんですよ。そうなるとその人のよさを引き出そうという方向性に自然と転換していった気がします。みんなも個人個人ですごく練習するので、その感じがようやくちょうどいいくらいに融合したかもです。ハンデなはずのものが自然とまとまり、自動的にオリジナルなものになる。逆をいえばそれがないとオリジナルなものにはなりえない、のではないかな。

―― 最初から二面性を狙っていたわけではなく、自分のやりたい世界を出していったらこうなった、という感じなんですね。

ニイ そうですね。そんな感じだと思います。

―― あと、ニイさんも「怒り」も意識したと資料に書いていましたが、嘆くというよりも怒りをちゃんと出せたことで、逆に希望が見える作品だと感じました。

ニイ ありがとうございます。

―― それを一番象徴しているのが1曲目の「暗野」じゃないかと。

ニイ なるほど。すごい嬉しいです。

―― この曲のはじまりを聴いたときに、デヴィッド・ボウイの「★(ブラックスター)」がふっと浮かびました。

ニイ おお、ええ(笑)。やっぱり常に『★(ブラックスター)』というアルバムは念頭にありますね。変な言い方ですけど、途中っぽいんですよね。これで完成という感じじゃないところがあのアルバムのすごいところだと思っていて。本人も闘病の最中で制作していましたよね。でもボウイってなんとなく全作品をとおして未完成なところが残ってる。それが最後のアルバムで「めっちゃ攻めてる! すげえ!」って思うんですけど、相変わらずどこか抜けてる感じがして。

―― あれはまたボウイにとってもチャレンジのアルバムでしたからね。

ニイ そうなんですよね。最後まで“次”へ手を伸ばしてるっていうか。観念的な言い方かもですが、『暗野』も、アルバム全曲聴き終わったときに終わりが始まりに感じる、だからまたリピートしよう、みたいな。そういう感覚のものだといいなと。「暗野」は、アルバムを束ねるような1曲が必要だなと思って作った曲なんです。ワードとして強いワードなので、最初はこの言葉をアルバムのタイトルにしようと思っていて。でもやっぱりこのタイトルで曲も作っちゃえ、ってことになり、そうなればなんだこれ?ってなるような曲がいいし、アニメのオープニングみたいに、キャラが出てきてチャキーンとタイトルが出てきて、みたいなポップさがあって、でも暗くて、かつハウスっぽい感じが自分のなかにずっとあったんですよ。このバンドなら出来るんじゃないかと。それをRomanticさんに伝えて、ああいうアレンジになりました。

―― すごく不思議な曲ですよね。

ニイ そうなんです。すごく変だと思います(笑)。でも人気はあるんですよね。みなさん、ポップに受け止めてくれて嬉しいんですけど。

―― 歌詞に「ひとりぼっちで 乗り込むね」というフレーズが出てきますが、孤独を感じるけれど、どこか背中を押されるというか。

ニイ 嬉しいですね。そうなんですよ。「乗り込むぞ」とか「乗り込むよ」にするとちょっと強すぎるから「乗り込むね」くらいがいいかな、と、そういうさじ加減を気をつけて作詞はしていますね。で、ひとりぼっち、と言いながらも、個性豊かな力強い仲間たちが集まったぜ、みたいな(笑)。「ユリナ、オカン、ロマンチーック!」って紹介するような感じがいいなと思って、この曲は全員で歌いたかったんです。クールだけどポップで、あたたかい感じがするのはそういう気持ちで作ったからだと思います。ダークな少年漫画みたいなイメージです。

―― たしかに、みんなのコーラスが効いてますね。

ニイ そこはこだわったところでした。

―― アルバム全体はRomanticさんが初のプロデュースということですが。

ニイ ウチでやってることはずっと一緒じゃん、て感じなんですけど(笑)。今回のアルバムは「自分がプロデュースしたぞ」と言ってみたくなるくらい達成感があったみたいです。レコーディングエンジニアの君島(結)さんに沢山喰らいついてましたよ、機材のあれこれ、マイクのこととか。オタク気質なので、なんかふたりで楽しそうに……、いや君島さんはどうだったのかな(笑)。大変ながらも楽しんでいらしたと思うのですが。

―― Romanticさん的にもいろいろ実験したんですね。

ニイ そんな感じだと思います。

―― プロデュースを任せるにあたり、何かリクエストはしたんですか?

ニイ 曲がたまってきたからアルバムにしようねってなったときに、説明はしなくても、ふたりのなかに共通意識はあったと思っています。リファレンスっていうのかな、プレイリストを作りあって聴いて、とか具体的にはありましたけど。

―― これまでの活動をとおして意思の疎通はできていたんですね。

ニイ そうですね。


■大人になってからのイライラはマジで“怒り”だなって


―― 「大人はわかってくれない」は一番古い曲だそうですが、歌い継いでいるうちに変わっていく、新しくなっていく感じで、初期に作った曲には聴こえませんでした。

ニイ この曲はなかなか凝ってましてね、自分が作った曲では展開の多さはピカイチです(笑)。前にやっていたバンド(HOMMヨ)の活休が決まる前、やるかやらないかくらいのタイミングで作っていて。次の段階にいこうと頑張って作った曲なので、ソロになったときにとりあえず弾き語りでやっていたらいろんな方々がいい曲だと言ってくれて、それでここまできました(笑)。

―― ライブでもフックになってますね。

ニイ そうですね。いろんな意味で重みのある曲ですね。(資料を見ながら)この曲、5分14秒もあるんだ。意外だ(笑)。あ、これ(「Maps to the stars」)も同じ5分14秒なんだ!

―― そうなんですよね。同じ分数でしたね。で、他の曲は強いキャラクターが曲のなかに登場するけれど、この「大人はわかってくれない」と「Maps to the stars」の2曲はニイさんの素直な気持ち、ニイさん自身がより投影された曲だな、と。

ニイ パーソナル的な感じがするってことなんですかね。なるほど。

―― キャラクターにせずとも、無意識なところでそうなったんですかね。

ニイ たしかに言われてみれば、「大人はわかってくれない」は、大人を信用してない子供のキャラだとして、「Maps to the stars」は「言うてもロックンロールとかスーパースターとか憧れのものはやっぱり信じていたいじゃない? だって子供なんだもん」みたいな、子供の二面性という感じがしますね。それを迎えに行くのは自分だよ、という曲でもあるんです。自分以外誰もわかってくれないからねって。けっこう厳しいことも言ってるという……、そうですね、完全に俺っすね(笑)。

―― この2曲の曲同士でも二面性が出ていますね。

ニイ ほんとだ! ほんとですね。

―― これが1枚のアルバムに入っているのもぐっときました。

ニイ 徹底的に二面性ですね。なんか恥ずかしいな(笑)。

―― 意図してなかったんですね(笑)。

ニイ あまりしてなかったですね。「Maps to the stars」のほうはロシアのウクライナ侵攻が始まったときにショックで作った曲だったんです。この曲など数曲、bandcamp売り上げは一部、国境なき医師団や赤十字に寄付してます。本当に微々たる額ですけど。それからイスラエルによるパレスチナへの攻撃、トランプの大統領再選など、世界的にもコロナ以降、本当に異常事態ですよね。日本も格差がどんどん広がっていて、差別の問題もひどいし。中高生の頃、パンクが好きになってプライマル・スクリームのボビー(・ギレスピー)にかぶれたんですけど(笑)、ボビー先生の影響で政治や社会に関心を持って、そこから視界が一気に広まったんですね。17歳のときです。9.11もあって「国家ってどこでもやべえな」ってなって。「この状態をほっといたらこうなるんじゃないか?」と考えていたことが結構そのとおりになってるなと最近よく考えるんです。例えば高校生の頃に、日本は自殺させ屋が流行るだろうって友達に言ってたらしいんですよ。生きていてもしょうがないという人が増えて、ドクター・キリコ(※『ブラック・ジャック』の登場人物。安楽死の必要性と正しさを信念とする医師)みたいな安楽死させる職業が出てくるんじゃないかって……、もちろん、それを見据えて手塚治虫先生はキリコを生み出したんでしょうけどね。キリコは漫画のキャラクターだから哲学を持ってるけど、人間はビジネスと繋げちゃうだろうなって想像していました。だから社会に関心がないとかぼんやりしている人たちにムカムカしていたんです。同時に、どこかで物悲しいというか、人類って愚かだよなっていう、諦めとかで蓋をしていたところがあるんです。そうやって黄昏ちゃうのが子供なんですよ、無力ですから。でももう40になって、どうしたって大人になったってときに、「やっぱこれ、腹立つな」って。そのぼんやりな人たちが悪いわけでは決してない。関心を持たせない社会をつくっている人たちが悪いんであって。

―― 気持ちに蓋をしている場合じゃないな、と。

ニイ そうですね。マジでムカつくわと思って、怒りが出てきたんです。プライマルが『XTRMNTR(エクスターミネーター)』を出したときもボビー先生はアラフォーで、今までもずっと持っていたけど満を持して「怒り」を表出させたんじゃないかなと。それが自分にもわかって「この感じっすね、先生!」みたいな(笑)。小さい頃の怒りはイライラで、それはそれで純粋なんですけど、大人になってからはマジで“怒り”だなって。で、この感情は今つかまえておかねばならぬと思ったんですよね。だから「このアルバムで怒りが表現できた!」みたいな。『XTRMNTR』や、同時代だとレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとか。音的にああいう風には聴こえないと思いますけど、私は怒っていますよ、ということは確かですね。

―― 怒りを無視できない状況というのもありますよね。

ニイ ただ、レイジのあの怒りの表現を、彼らにはやる資格がある、って当時から思っていました。キッズが暴れるバンドにとどまらないよなって。ちょっと脇にそれますが、「空耳アワー」で彼らの「Killing in the Name」の「And now you do what they told ya」という歌詞が「ナゲット割って父ちゃん」って聴こえるというのがあるじゃないですか。あれめちゃめちゃ失礼だったと思うんですよ。自分たちのアイデンティ、移民への差別、暴力、ふざけるなという怒りの音楽に、「ナゲット割って父ちゃん、って聞こえる~」って笑ってヘラヘラしているのは、日本の、サブカルの嫌なところだなと思ってるんです。そりゃ子供の頃は自分も笑ってましたよ? ただ、この無自覚、無意識な感じがすごく怖いなと、今では思っていて。私のこの、怒ってるぞ、という表現は、「やる資格があるのか」とか考えちゃうんですよね……ある意味でマッチョ思考かもですね。すぐ自己反省しちゃう(笑)。でもそれをやりすぎると縮こまった表現しかできなくなるのでどうしたもんかなと思っていたんです。

―― そんな葛藤も。

ニイ でもやっぱり、あまりにも世相がひどすぎて、悪くなっていくだけのことってあるんだ!? って。人間は地球を滅ぼすためにその歴史をはじめただけの生き物なのでは? みたいに思うようになって。

―― 根源的なところまで到達したんですね。

ニイ マントルまで到達して火山が噴火した感じ。「怒ったー」みたいな(笑)。

―― なるほど(笑)。でも、例えば怒りの表現としてレイジとは同じ怒りにはならないけれど、ニイさんなりの怒りのベクトルが、それぞれの曲で違う照らし方であらわれてると思います。

ニイ うんうん。ありがとうございます。また「ナゲット割って父ちゃん」とか余計な脱線しちゃいましたけど(笑)。

―― すごくわかりやすかったです(笑)。アルバムの全体像を見ても、7曲目の「解剖」でサウンドがパッと開ける感じもいいですね。

ニイ 曲順はめちゃめちゃ考えました。「解剖」はお気に入りで、いわゆるロックバンドではできないワザと言うか、自分の歌い方も含めてテーマ的も地味にチャレンジした曲ですね。

―― というと?

ニイ 「クィアのセクシーなラブソング、R&B的なアプローチで」って曲なんで、とにかく照れちゃいけない曲なんですよね。私は音楽上で照れとの戦いなので(笑)。全然そんなふうに見えないと、メンバーにも言われるんですけど。「解剖」は表現的にやりたいことをぶち込んだ感じです。

―― 他にも、この曲のここにこだわったとか、思い浮かぶ曲はありますか?

ニイ 「PARALLEL」はLoupx garouxとしてはじめて録音した曲でもあるんですけど、アルバムに収録するにあたって録り直しをしました。最初の方は同期も不慣れだったし、みんなも掴めてない感じもあったから、ライブでも慣れてきた今リ・レコーディングをしようと。歌詞は変えてないんですけど、ニュアンスとか歌い方をまた一から考え直しました。最初のバージョンだとYURINAさんのパートがもっと力強いんです。前回のYURINAさんは松田聖子みたいなすっごいきれいな場外ホームランみたいな歌声で。それもすごく素敵だったんですけど、今回は少し切ない感じで、とお願いして、ちょっと陰りのあるニュアンスで歌ってもらいました。

―― 最初のバージョンが聖子ちゃんぽかったとは。

ニイ そうなんです。サブスクにあるので聴き比べると楽しいぞ、みたいな(笑)。

―― 聴いてみます(笑)。

ニイ ソロアルバムでやった曲も半分くらい入っているので、それも聴き比べて楽しんでね、という気持ちもありますね。サブスクを使えばそういうことが手軽にできますからね。同じ曲をいろんなバージョンでやってもいいのでは?って。セルフリミックスみたいな感じで。

―― それは面白いですね。

ニイ ずっと思っていることなんです。ソロ活動は、ギター一本で唄ってもいい、バンド形態やアレンジとかやっている人の解釈が違えばまたいいところが見えるかもしれない。そういうことをあまりやっている人がいなさそうだから「私の特徴にしちゃえ」と思ってるんですけど(笑)。そういう自由な制作ができる、そのへんは「ボウイイズム」というか。ボウイも初期の全然評価されなかった曲を、年齢を重ねてから『TOY』というアルバムでセルフカバーしてますよね。変化して遊ぼう、っていうか。ああいうのがすごくいいなと思っているんです。


■ローカルには動くけど、見ているところはグローバルに


―― いいですね。あとサウンドの特徴でいうと、インダストリアルやロック、ダンスミュージック、R&Bといったニイさんの好きなところが出ていますが、例えばステージで佇んでいるだけのときも、ニイさんが跳躍しているような残像を感じるんですよね(笑)。

ニイ ははははは(笑)。

―― それってなんだろうなと思っていたんです。でも改めてアルバムを聴いて、踊らなくてもいいダンスミュージックだな、というか、ダンスミュージックって踊らなくてもいいんだ、という気づきがあって。

ニイ すごいですね。ちょうど同じことを前のインタビューでも言われたんですよ。踊れないってノリが悪いという意味じゃなくて。

―― そうそう。ノリが悪いという意味じゃなくて。

ニイ それも相反してる部分ですよね。やっぱり「踊れ!」とか言われるのは苦手だし。

―― わかります。それでライブを思い返したら、あの佇んでる感じもニイさんのダンスミュージックかもと思って。

ニイ おお。なるほど。佇んでいてもダンスミュージック……面白いですね。

―― 勝手な思い込みですけど。

ニイ なるほどと思いました。そもそもダンスって楽しいから踊るってだけでなく、抵抗のためのものでもある。でもみんなの輪に入りたくないとか自分を失ってしまう気がして怖いからじっとしてるとか、それもひとつの抵抗だと思うんですよ。家でひとりでヘッドホンで、じっと聴いているときもどこか身体は動いてるかもしれない。それだってダンスになる、という気持ちがすごくあるので。そういう人たちも聴いてくれている感触があります。ただ自分は、どうしても音を聴くのが好きってのと、合奏が楽しいので、クールにやろうとしてもライブでどこかがぴょこぴょこ跳ねてるのはあると思います(笑)。喜びが隠しきれてないんですよね。

―― そういう気持ちが残像として見えるのかもしれないですね(笑)。

ニイ 顔が怖いからなあ、ノリの良い人間にはあんま見えないかもですが。躍動して見えるというのは楽しいんだと思います(笑)。

―― アルバムが完成して少し経ちましたが、手応えはいかがですか?

ニイ 今回ディストリビューターを変えたとかいろいろあるんですけど、単純なサブスクの数字として聴かれている率が圧倒的にアルバムがドカンといっていて。とくに「Maps to the stars」はプレイリストに入ったことで届きやすくなったみたいです。

―― シングルみたいな立ち位置になったということですね。

ニイ そうですね。1曲打ち出すときに「大人はわかってくれない」か「Maps to the stars」かだねって言ってたんですけど、Romanticさんとも話して「Maps to the stars」に絞りましょう、と。

―― いい曲ですもんね。

ニイ そのままやると素朴な曲になってしまうから、MITSUKIとかジェイムス・ブレイクとか、少し新しい世代のインダストリアルでフォーキーな感じがあるアレンジにしてみたんです。「Maps to the stars」とか「Lilith」みたいな、ギターでじゃんじゃかやりながら作った曲はどうしても似てきちゃうんですよね。だから「Lilith」はちょっとわかりやすいシティポップみたいなアレンジにしたり。

―― 「Lilith」はアルバムのなかでもあたたかみのある優しい曲ですよね。

ニイ Romanticさんはこの曲はアルバムに入れたら浮くんじゃないかと言ってたんですけど、私はあえてこういう曲が入っていることに大人の余裕を感じるから「これは入れたい」ってねばって。クールなアルバムだけど、ふっと一息つくような感じがあるのって良い! と思ってて。どうしても自分はアルバム脳なんですよね。アルバムでしか表現できないニュアンスがあると思っているので、これを入れないとシュッとしすぎ、完璧すぎると思って、ちょっとした風穴として入れたかったんです。

―― たしかにアルバムの色合いが増しますね。

ニイ 「Lilith」も好きだと言ってくれる人が多くて。女性への応援歌、自分なりのフェミニズム賛歌としてストレートに作った曲なんです。もちろん男性その他の方々も励まされてほしいですよ! これは「ちょっと常識からはみだしてこーぜ」ってそそのかす小悪魔のイメージです。まだまだ勘違いされてますが、フェミニズムは男性を攻撃したり排除したりするものではないので。

―― そうですね。改めて、本当にいいアルバムだと思います。1曲1曲がかっこいいし、洋楽チャートに入るような現代的なアルバムだと思います。これが世界の王道というか。

ニイ めっちゃ嬉しい! Romanticさんもそういう意識でプロデュースしてるというか。電気グルーヴが「おもちゃ箱をひっくり返したようなっていう言葉は禁止用語だ」と言っていたのを何かで読んだ覚えがあるんですけど、私たちも自分たちを冷静にさせるために「洋楽っぽいね」っていうワードを禁止にしよう、って言ってました(笑)。私もRomanticさんも基本的に海外の音楽ばかり聴いてるタイプなんですけど、そこを狙ってますみたいな感じにはなりすぎないように、でも現代っぽさというのは出したいんだよねって……。

―― その努力の跡はすごくわかります。

ニイ そうなんですよ。私は、日本語で歌っているんだぞってところをすごく意識しながら、歌詞や歌い方を考えています。

―― でもサウンドやアレンジは世界の王道という。

ニイ ローカルには動くけど、見ているところはグローバルに、というか。最近、南アフリカのヒットチャートをサブスクで聴いてるんですけど、盆踊りっぽかったりメロディが歌謡曲っぽかったり、でも軽やかで心地よさがシンプルなんですよね。アメリカのブラック・ミュージックのポップスとは何か違うんですよ。それにはやっぱ辛い歴史的背景が影響してるんだろうな、とか。こういうことを、もっと色々勉強したいです。

―― ヒップホップのトラックも盆踊りっぽいところがありますもんね。Loupx garouxも子守唄というかなんというか……

ニイ 童謡っぽいってよく言われますね。

―― そうそう、童謡的でもありますね。

ニイ 私は環境的にいわゆる“洋楽育ち”ってやつなんですが、でも盆踊りや童謡ってぼんやりとでも身近には感じます。英語も喋れるわけじゃないし(笑)。そういう体感を、もう無視することはできないなと。あと子供の頃に方言きっかけでいじめられたことも、どこかでずっと残っていることにも気づきました。さっきの「ナゲット割って父ちゃん」で無邪気に笑う、じゃないですけど、「日本人」そのものってうまく掴めなくて、「そうじゃない」から「日本人」だ、っていう、そういう感覚でないと自分がなんなのか確認できない。自分のことがわからない、って根源的に不安を抱えるってことだと思うんです。その怯えが、排除や差別にも繋がってくるのかな、とか。作りながらいろんな考えや興味が湧いてました。音楽ってほんとに沢山の刺激をくれます。音楽から自分のルーツを探って、それをもっと音楽で表現がしたいって思った。素晴らしいメンバーや沢山の方々の協力もあって、スケールは大きい作品になりましたが、そういう極私的なアルバムにもなっていますね。これも二面性ってやつですかね(笑)。


photo by 大橋祐希

© 2024 DONUT

INFORMATION

1stフルアルバム『暗野』
2024年10月23日リリース
収録曲:01.暗野/02.大人はわかってくれない/03.TEARDROPS/04.Lilith/05.UNDERTAKER/06.D/07.解剖/08.Maps to the stars/09.ワンダーウォール/10.PARALLEL
配信URL:https://friendship.lnk.to/Anya_lg

official web:https://www.loupxgaroux.com/
instagram:https://www.instagram.com/loupx_garoux/
X:https://x.com/Loupx_garoux

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