DONUT


2024.12.18 upload

a flood of circle『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』
佐々木亮介インタビュー

自分のなかのブレンドで、ロック的なものとかいろんなものを混ぜたときに、ギリギリこれがオリジナルであってくれ、みたいな祈りながらの気持ちがある――佐々木亮介

a flood of circleがニューアルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』を手に、2025年6月まで続くツアーをスタートさせた。このアルバムはレコーディング環境を変えて自分を、バンドを試したいという思いのもと、収録曲のうち5曲を福島県の山小屋でレコーディング。それを佐々木亮介は「悪あがき」と称しているが、完成したアルバムにつまったむき身の歌とサウンドは、a flood of circleというバンドにかける思いや、好きなものを追い求めるプリミティブな衝動にあふれている。このインタビューで夢の話になったとき、佐々木亮介は「夢と言われたら、強いて言うと、最後までバンドをやること」と話してくれた。その言葉を聞いてあらためてアルバムの楽曲群を聴くとさらにグッとくるものがある。ライブではなおさらのことだろう。音作りもステージもソリッドさが増していく今のa flood of circleをぜひ体感してほしい。

●取材=秋元美乃/森内 淳



ファスター/a flood of circle (AL『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』)


■“自分たちにとって意味のあるもの”みたいなことをしたいなと思ったんですよね


―― 8月12日に開催した野音ライブは、全32曲3時間以上にわたるステージになりました。振り返っての感想はいかがですか?

佐々木亮介 暑かったので、人が倒れなくてよかったな、と。とにかく30曲以上はやろうと思っていたんです。数で勝負しようというか。そうしたら最近、BRAHMANが70曲くらいやったって聞いて、やっぱ数ですよねと思ったんですけど(笑)。でもa flood of circleのなかで一番長いライブにしようと思っていて、自分なりにそれは決めていました。ちょっとお喋りをしすぎたけど、野音は好きだし、嬉しい日でしたよね。

―― その野音はあらゆる面でむき出しな感じが強い印象がありましたが、今回のアルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』は野音で感じた以上にむき出しな感じがしました。何かこういうアルバムにしたいという構想はあったんですか?

佐々木 一個やりたかったことは山で録るというか、誰も録ってないところで録りたいということは決めてました。環境が整ったスタジオにしてもどんな環境にしても「この武器を持ってます」というバンドだったらいいんですけど、なんにも特徴がないので、せめて録る場所から変えて自分を試すというのもあるし、せめて録った場所くらいオリジナリティが欲しいな、みたいな(笑)。他のすべてのパーツが借り物なのに、ちょっと悪あがきをしたなという感じですかね。

―― そういう理由で山小屋レコーディングを決めたんですね。

佐々木 2年くらい前にドラムのナベちゃん(渡邊一丘)に「あと3年くらいバンドがこんな調子だったら、俺はもうもうやれないかも」って言われたんです。お金のこととかモチベーションとかが混ざってたと思うんですけど、俺は今のメンバーが好きだし、自分は音楽が好きというかバンドを辞めるわけにはいかないんですよ、絶対に働きたくないから。バンドがやりたいんですね(笑)。だから3年後に辞めて欲しくないなあと思ったときに、何だったら今と同じ調子じゃないのかと考えて、武道館をやろうと思った。それで「ゴールド・ディガーズ」という曲で武道館をやるっていう歌詞にしたんです。

―― あの歌詞はそういう思いがあったんですね。

佐々木 はい。そういうことがあったあとに、テツの入院とかもあって病名がわからなかったんですね。死んじゃうかもと思って。けっきょく元気だったんですけど、それが不治の病と付き合っていかなければならない病気だと言っていて、そういう意味でも長く続けるというのは綺麗事ではないし、上手く運ぶとは限らないよねっていうことを去年あらためて思ったんです。あと、自分たちでマネジメントをやっているんですけど、3月くらいにそのかたちがかなり変わってしまって先を考えちゃったんですよ。武道館で何をするかとかナベちゃんが残ってくれたとして何をするかと思ったときに、最後まで身体が動かなくなるまでやり続けることをこのバンドで一番やりたいって。それで今と同じ調子じゃ駄目なんだったら、なんか変えなきゃならないなあと思ったら山小屋でレコーディングというアイデアが出たんです。自分の実力を考えたらスタジオで録るなんて生意気だなと思ってきて(笑)。

―― そんな(笑)。

佐々木 いやマジで。最近、グラミー賞とかもみんなiPhoneで録ったトラックで録音したりしているじゃないですか。グラミー獲ってる人がiPhoneでやってるのに俺がスタジオなんて本当すみませんって思っちゃって(笑)。山だったらパッと機材を持ち込んで録れるかと思っていたんですけど、けっきょくスタジオで録るよりもお金がかかっちゃったんですけど。機材を借りたり泊まったりしたんで。その辺はちょっと失敗してますけどね。でもその流れで、逆張りだけじゃなくて他人がやっていないというだけでなく“自分たちにとって意味のあるもの”みたいなことをしたいなと思ったんですよね。

―― いろんな思いが重なっての山小屋レコーディングだったんですね。今回インタビューをするにあたって過去のアルバムもあらためて辿って聴いたんですけど『WILD BUNNY BLUES』がとくに一番ぐっとくるというか、まわりの空気とかも入っているようなアルバムで。

佐々木 ありがとうございます。

―― 整った環境で作るものが最高じゃないんだというのがわかりました。

佐々木 相当、好意的に聴いてくれて嬉しいですね。ありがとうございます(笑)。悪あがきのつもりだったので。

―― 山小屋でのレコーディングのときには、アルバムの全体像は見えていたんですか?

佐々木 詞と曲が揃って「歌」だと思ってるんですけど、曲の部分は全部ありましたね。こんなことをやりたいというのが。詞の部分は、他人からすると考えなくてもいいようなことをバーって考えちゃうんですよね。だからそれをやっていると詞ができるまで時間がかかっちゃう。本当はもっと反射神経で書いたようなもののほうがかっこいいと思うんですけど、それをやってる人はいっぱいいるし、自分はそっちじゃなくていいかと思ってるんです。だから何を歌うかとかは決まってなかったんですよね。音楽的サウンドとしてはなるべくやることを減らす、とかは思ってましたね。2泊3日で6曲録ろうと思っていたので、凝ってる余裕はないしなるべく凝らないでやりたかったんですよ。メンバーは演奏が上手なのでもったいないと言えばもったいないんですけど。中途半端に凝ったアルバムにするのは嫌かなとは思ってました。

―― メンバーの心持ちの違いは感じたりしましたか?

佐々木 山は広い窓があって、外に出たらすぐに山のなかの空気が吸えてっていうのは……前半はそれがすごく嫌だったんです。なぜならチルっぽい感じを求めていなかったので、チルな空気になるのは絶対に嫌だと思っていたんですよ。ナベちゃんとか焚き火とかしてて、めっちゃチルモードに入ってて(笑)。でもナベちゃんとかに緊張感を強いたくはなかったんですよね。メンバーと同じモチベーションというか同じ気持ちでバンドをやっているとは思っていないので、みんなの利益というとドライすぎますけど、みんながいいなというポイントを目指してやってみればいいかなと。テツも病気明けだったし、姐さん(HISAYO)はちょっとどうだったかわからないんですけど、ボーイズにとっては爽やかなレコーディングだったんじゃないかなという気がします。

―― そうなんですね。

佐々木 さっき言ったように長く付き合ってくれたディレクターが辞めたタイミングで、しかも山でやるという何かいろいろ不安定なことになったのでどうなるだろうと思っていたんですけど、新しいディレクターもいい人だったし、あと(高野)勲さんが来てくれたので。勲さんは音楽的にも人間的にもちゃんとしてるというか……夜行性ですけど(笑)、夜行性のちゃんとした人というか、サポートメンバーとしてGRAPEVINEとかもやっているので、俯瞰で見られるんですよね。勲さんがいるとみんなかっこつけるというか、いつものスタッフだと甘えちゃうし無駄なテイクを繰り返しちゃうけど、勲さんとか先輩を見ていると、もうワンテイクとか言いにくいじゃないですか(笑)。もちろん最低限はやりますけどね。勲さんがいてくれていることによって、ちょうどいい緊張感になったかなと思います。

―― 山のあとにスタジオでもレコーディングしたんですよね?

佐々木 はい。3曲録りました。

―― 同じ熱量を感じるのですが、山での経験がスタジオでのレコーディングにも影響しましたか?

佐々木 そうですね。山で全部を録ったら山の人になっちゃうというか(笑)。自分は故郷がないので、その山にこだわりがあると思われても違うなというか。10曲くらいあるわけだし、山のレコーディングを経て最後は東京で録りたいなとも思っていたので、おっしゃる通り、同じテンションでやれたと思います。ただ東京でのレコーディングは勲さんがいなかったのでかなり手こずりましたね(笑)。ごちゃごちゃやっちゃいましたね。シンプルな感じとかパワーとか、なるべく丁寧にやらないとか、そういうのはあったと思います。

―― シンプルな感じというのは、音数にしてもライブでの見せ方にしても最近とくにそういうソリッドさを感じます。

佐々木 世の中に文句がある家庭に生まれたかというとそうではなくて、もちろん人間だから自分にしかない面はたくさんありますけど、わかりやすく何かを恨んでいるとかあるわけじゃない人間が、かつ音楽的なアイデアとか才能とか商売するのが上手いとかがない場合、本当に自分をむき出しにしたときに出てくる音とか言葉とか歌の感じとか声とかが面白くなかったら、売り物にならなかったら、メジャーで出してもらう意味がなくない? みたいに思うこともあって。それと同時に、それを全部抜きにしても働きたくないという自分がいるので、どうにかこれでやっていきたいんですよ(笑)、絶対に。それだけは決定しているんで、そのワガママや甘えのなかでできることをMAXでやるとなってくると、「働きたくない」とかわざわざ言わなくていいんだけど、自分なりに突き詰めていったらその言葉だったんですよね。それが嘘のない自分なのでそう言ってるんですけど。そういう自分を突き詰めていく作業と、音をシンプルにしていく……これは自分の哲学なんですけど、19歳くらいまでに影響されたことでしか勝負できないんじゃないかって思っているんです。それ以上の成長とかテクニックとかを求めていくと商社マンっぽいなと。社会的な成功と生きていく技術を上げていって、いい車に乗っていい家を買っていい墓に入っていい戒名を買うっていうのではない価値観を求めていたのにな、と思うから、食えないからバイトをしようとかはまったく思わないんですよ。それがあるからむき身にしていって、矛盾していることとかダサいこととかも全部含めて、「俺はこのように困っています」ということが表現できたら……俺はこのように生きていますってかっこよく言われてもあまりぐっとこないというか、恥ずかしい話とか困った話のほうが面白いかなというのもあるし、そういう感じでやっているんですね。そこは自分を掘っていったところにしかないやり方とか言葉とかがあるのかなと思っていて。それを売り物にしようと、今はしてますね。

―― だからそういう歌にリスナーとしてはぐっとくるんですね。

佐々木 だといいんですけどね。

―― このアルバムにすごくあらわれていると思います。

佐々木 本当ですか? それだけはやりたいと思っていたので。

―― 1曲目の「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」はあらためてこれからの佐々木さんとバンドのあり方を宣言しているような曲ですよね。

佐々木 最初はこの曲か「虫けらの詩」を野音で出したかったんです。でも「虫けらの詩」しか歌詞が書けなかったんですよ。「虫けらの詩」は地味な発明をしていて、イントロから最後まで同じコードしか弾かないと決めていたんです。みんなはいろいろやってくれるけど俺はずっと同じコード。これは引き算をしきったことで、意外と誰もやってないんじゃないかと思って地味な発明をしたんじゃないかという気になっているんですけど(笑)。「野うさぎのブルース」のほうはとくにそういうものがなくて普通のJ-ROCKだなと思ったので最初は「J-ROCK」という曲にしようかなと思っていたんです。野音の最後に「新曲です。“J-ROCK”!」って言ったら面白いんじゃないかって。そもそもJ-ROCKってよくわかんないんですけど。そうやっていろいろこねくり回しているうちに他の曲ができちゃったんですね。それで最後にアルバムを総括するくらいの感じで気持ちを整えたら「野うさぎのブルース」のような歌詞になりましたね。「食い荒らしてる畑」と書いたんですけど、大泥棒でもなく銀行強盗でもなく万引きくらいの感じでロックをやってるなあと思って。他人のアイデアをちょこちょこ盗んでやってるのが自分たちだなあって。だから「万引きブルース」でもよかったんですけど、それはちょっとね(笑)。「野うさぎのブルース」にしたのは、可愛いものが好きなので。

―― 可愛いものが好きなんですね(笑)。

佐々木 例えば(前作のジャケットを描いた)奈良(美智)さんも好きだし。自分のなかで奈良さんってシンプルでパンク的で可愛くて、どこか「舐めんなよ!」っていう感じも入ってるし、那須の山奥にいるし、そういうのはあるのかもしれませんね。パンクバンドとかも、このあいだ(甲本)ヒロトさんに会ったときも可愛いなあと思いましたね。ハードボイルドなものよりも、そういう可愛さに惹かれるというか。自分のルーツはスピッツですしね。「ウサギのバイク」っていう曲があるからちょっとパクっちゃったかなあと思ってるんですけど(笑)。「WILD BUNNY」だけだとピロウズっぽいし。そういういろんな要素が集まってる。わざと盗もうと思ってはいないんですけど、書いたら自然にあれやこれやといろんな畑のお野菜をいただいてきた、みたいな(笑)。そうやって曲がまとまってきましたね。

―― 「昔の傷がいつかちゃんと君を救うから」というフレーズも、佐々木さん自身に歌ったことかもしれないし、聴いている人の心の横で救ってくれるような感じもあって。

佐々木 そうだと嬉しいですね。

――「虫けらの詩」には「また一人 俺を離れてく」という一節も。

佐々木 なんか同情を得ようとしていますよね(笑)。すぐに同情を得ようとするところがあるんですよ。「生きているだけでいいよ」みたいなことを言って、どうにかバランスを取ろうとしてる(笑)。ほんと恥ずかしいですけどね。

―― 普通はよく見せたいという部分があると思うんですけど、佐々木さんの場合、弱さとか駄目さを前にも増してさらけ出している感じがこのアルバムを象徴していますよね。

佐々木 弱さの反動でみんな革ジャンを着たり、頭に油を塗ったりしていると思うんですよ。例えば(ギターウルフの)セイジさんとかは全部背負ってるというか。素なんだろうけど素がわからないというかっこよさがあると思ってて。自分はそれを背負えなかったんですよね。弱さの反動で革ジャンを着ているのは一緒だとは思うけど、じゃあ何を歌うかということに関してはセイジさんと同じじゃしょうがないしなって。だから必死に他人ではない自分を探したときに、弱さを歌うというのはみんながやっていることだと思うんですけど、自分のなかのブレンドで、ロック的なものとかいろんなものを混ぜたときに、ギリギリこれがオリジナルであってくれ、みたいな祈りながらの気持ちがある。そんなふうに思ってますね。

―― セイジさんは寝るときにもサングラスをかけているという話がありますよね。

佐々木 やばいっすよね。オーストラリアのツアーの写真を見たら海に入るときにもサングラスをしているんですよ。ほんとアントニオ猪木さんとタイガー・ジェット・シンが伊勢丹の前で闘っているみたいな、そういう感じというか(笑)。とてもじゃないけど勝てない。勝てないなりに闘い方を見つけないと働くはめになりそうなんですけど(笑)。

―― そういうセイジさんがいるように、このアルバムには佐々木亮介という人間がいるように思います。

佐々木 ああ、そうだといいなあと思います。


■ロックミュージックって大喜利的だなと思っているんです


―― 「ゴールド・ディガーズ」のシングルが出たときには武道館まで3年という歌詞でしたが、月日も経って、アルバムでは武道館まで2年というふうに変わっています。これはもう本当にその未来に向かってバンドは進んでいるということなんですよね。

佐々木 ロックミュージックって大喜利的だなと思っているんですよ。ロックってぼんやりとしたものに対して何ができるか何を言うかどんな態度でいられるかという大喜利をみんなでやっていると思っていて。武道館って普通、もう売れている人が言うか、もっと若者が言う言葉な気がするんです。でもこの微妙なキャリアで、しかも歌詞を書いたときには野音がまだ売り切れてない状態で言うのは単純に面白いと思ったんです。武道館をあと何年後にやるという歌詞は聴いたことがないんで、逆張りの大喜利で出した歌詞なんですね。それがさっきのナベちゃんの話もあって、そこはナベちゃんに感謝なんですけど、ナベちゃんに発破をかけられていなかったら、こういうふうにもなっていなかっただろうし、その言葉として歌もなかったと思うんで。

―― 2025年になったら“1年”という歌詞に変わるかと思うと面白いですよね。

佐々木 武道館は1年くらい前からしかとれないらしいんですよ。予約がいつとれるのか正確にはわからないので、予言どおりにいくのかどうかはやってみないとわからないんですけど、一応、そのつもりでやってますね。

―― 「ファスター」に出てくる「俺の夢」と「ベイビーブルーの星を探して」に出てくる「埋めた夢」というのは佐々木さんのなかでは同意義なんですか?

佐々木 そうですね。「叶う夢」というのはあまり考えてなくて、終わった夢のことばかり考えてる。例えば俺が思い描いていたロックスターになることは絶対にないなと思っていますけど、もう無理だなっていうところに立っている自分の歌としてはあるんです。歌にはなってる。だから遠い夢と書いてファスターなんです。叶わないなということとか、実はもう埋まっている、みたいな。

―― なるほど。

佐々木 武道館は夢ではなくて社会人としての目標。これくらい稼いでナベちゃんを引き留めようということだけなんで、「武道館でやるのが夢でした」ってなるのは自分に「本当?」って思っちゃうんですよ。「武道館になんの思い入れがあるの?」みたいな。子供のときにドラクエ5(ドラゴンクエストV)が欲しかったときの気持ちで言ってるというか。他人のおもちゃがキラキラして見えるというか。そういう理由で武道館をやりたいだけなんじゃないかなあって。でも虚栄心とか他人によく思われたいという気持ちもめっちゃあるんで、そのためにも武道館をやりたいというのはあります。だからナベちゃんが言ったことを利用してごめんって感じなんですけど(笑)。「夢」と言われたら、強いて言うと、最後までバンドをやること。もう無理っていうところまでやっていくこと。でもそれは夢なのかなあ。夢というか他のことをやりたくないので、それがいいってだけなのかも。セイジさんとかジョン・レノンとか、そういうやばいミュージシャンには自分ではなれないなあという感じが「夢」という言葉に入っているかもしれないですね。

―― これまでのアルバムも含めて、佐々木さんが使う「夢」という言葉が一般的にいう夢とは違う気がしていて、それがずっと印象に残っていたんですよね。

佐々木 古いロックにちょっとやられているというか、頭のなかはお花畑というか、まだ平和とか戦争のこととかを考えて歌にしたほうがいいんじゃないかと思っているし、それって遠い夢だよねって。何年、何千年もやってきているのにまだ戦争をやってるということは、たぶんなくならないだろうなあと思うんですよ。18くらいのときまでは、死ぬまでには1日くらいは戦争がない日がくるかもと思ってたんですけど、大人になったら無理だとわかるというか、そう思うようになって。だから世の中にどれだけ言いたいことがあっても、政治をするよりはロックミュージックをやって理想を言ってるほうがまだマシとは思っているんです。そういう遠いものに向かってないと意味がないというか。ジョン・レノンに刷り込まれているような気はします。「イマジン」的なものに。ロックミュージックがリリースされて何かのパワーがないと寂しいと思っちゃうんだと思います。売れてるとかを超えて。かなり月並みなことを言ってますけど、そういう考えはあります。

―― 「ファスター」があることで、武道館は夢ではないということがより鮮明になった気がします。

佐々木 そうですね。リアルに俺に必要なものとして言っているような感じですね。「ファスター」の夢はもうちょっと向こうのような気がしますね。


■バンドがある時点で幸せじゃんって思ってますね。だからもう全然OKです


―― 「屋根の上のハレルヤ」もめちゃめちゃいい曲で、4人の音がすごくクリアに聴こえるというか。その辺、意識した音作りってありましたか?

佐々木 山で録ったときにエンジニアの池内さんの腕がすごすぎて、普通にいい音で録ってくれたんです。つまり山で録ったけどスタジオっぽい音になったんです。で、スタジオでレコーディングするときもシンプルにしようという気持ちは続いていたのでピアノは自分で弾いたし、4人の音もなるべく少なめの音にしてやろうというのは決めてましたね。ただなんかちょっと背伸びしてるんですよね、「屋根の上のハレルヤ」は。「俺たちが歌うから大丈夫」みたいな感じのことを書いちゃったんですけど、本当にそう思っているというよりかはそう思いたくてやっているという。俺がもしソロだったら、6曲目くらいまでの歌詞しか書けてないというか書かないというか、背伸びしている部分は要らないんですよ。でもバンドをやって、このメンバーで続けたくて。さっき話した“19歳まで理論”でいくと、俺は19歳までにバンドを組めなかったんですよね。バンドに憧れたまま普通の大学に入って、どうすんのかなあと思っていたらa flood of circleができたんですよ。だからそういう子供のときにできなかった「俺たち感」みたいな。俺の本音は人間はひとりだというところで終わりなんだけど、バンドをやってるときの「“俺たち”って言いてえ!」みたいな、「言ってるバンドかっけー!」みたいな。背伸びで言ってる感じなんですよね。その背伸び感をあまりコーティングしすぎるとゴージャスになったりするので、一番背伸びをしている部分をアカペラにしたんです。あとちょっと下心がありますよね。「虫けらの詩」の1行目の「こんな日がどうせ来るってわかってた」というところと「屋根の上のハレルヤ」の「俺たちが歌うから 今夜 ひとりじゃない」というところを武道館で歌ったら、すげえぐっとくるじゃん、みたいな。

―― ああ、なるほど。

佐々木 ポジティブな日に初めて言葉が逆転するみたいな、そういう下心がありました。

―― 想像するとちょっとぞくっとしました(笑)。

佐々木 めっちゃダサいんですけどね。俺、映画とか見ていて一番がっかりするのが伏線を回収した瞬間なんで(笑)。これを言わずにやって、伏線回収って他人に言われたら嫌なんで先に言っておこうと。「そんなんじゃないよ、先にインタビューで言ってたよ」って(笑)。

―― ははははは。でも、家が転勤族だったからここだという居場所がないという話を前に聞かせていただきましたが、この「屋根の上のハレルヤ」を聴くと、ひとりだけどひとりじゃないという歌詞がすごくぐっときます。

佐々木 そのイメージを最近持ってますよね。俺たちは3分間一緒だよねっていう。メンバーともお客さんとも。曲の入りと終わりはなるべくダラダラしたくて、決まった感じが嫌だと思ったんです。そうしたら連弾というキーワードが自分のなかに出てきて、お客さんとかメンバーとかと1曲終わるときだけ探り合って、せーのでやって、今、合ってるかなって、同じことを共有できてるのかな、みたいな。それが、武道館とかライブを考えたときにやりたいことだなと今は思ってるので、そういうイメージがこの曲には入ってますね。3分間だけ一緒にいようっていう。

―― リスナーにとってもそうだし、バンドのサウンドの寄り添い方というか。そういうのもすごく“俺たち感”を感じる曲でした。

佐々木 嬉しいです。「ベイビーブルーの星を探して」なんか間違えたテイクで、ちゃんと終われてないんですよ。だけど「この感じ、最高!」って。メンバーはみんな嫌がっていたんですけど、3分間、俺たちは普通のミュージシャンとして過ごしてきているのに、最後も普通だったら普通じゃんって。みんなを傷つけたくはないけど、天才の集まりじゃないってことはわかるじゃん、みたいな。だから悪あがきしたいんだよねって。悪あがきしたいという甘えは君たちにしか言えないっていう。それが伝わってくれればいいんですけど。

―― ラストの「11」はアオキテツさんの曲ですね。最後にパワーあふれる曲で。

佐々木 どこに入れてもよかったんですけど、基本、自分で書いているから「俺たちはひとりじゃない」とか言って、「ひとりで書いてるじゃん」ってツッコミを自分でしちゃったんですよ。そのときにテツが曲をくれたので、「俺たちはひとりじゃない」と言ったあとにテツの曲がきたら説得力があるなと思ったんです(笑)。あとピロウズismがあって、ピロウズってライブで感動的な曲をやったあとに2分半くらいの短いロックンロールをやるんですよ。あのアティチュードが好きで。「(笑)」で終わらせてくれる、みたいな。そのイメージがちょっとあって、軽いロックンロールでお終いにしたいな、と。

―― めちゃめちゃいい流れです。

佐々木 ありがとうございます。自分でも気に入っています。

―― あと、間髪入れずに曲が出てくるところもいいですよね。

佐々木 本当は曲間を全部ゼロにしたかったんですけど、マスタリングには行かなかったんです。でもマスタリングにいないのに曲間は全部ゼロがいいって言ったらその場にいるスタッフたちに嫌われそうだなと思って、4ヵ所くらいゼロじゃないところを意味がある感じで入れておきました。

―― そうなんですね(笑)。最近のライブもすごくいいですが、ツアーは6月までつづく長いツアーになるんですよね。

佐々木 リハをやったら普通のバンドになっちゃう気がするので、本当は練習しないでやりたかったんですけど。なんか……例えばZAZEN BOYSとかだったらわかるんですよ、練習する意味が。難しいし。でもa flood of circleって練習してもまあまあのテクニカルなことなんですよ。だったら練習しないでやったほうが絶対に面白いのにって俺は思うんだけど、メンバーには伝わらなくて、練習してます(笑)。

―― そこはみんなの意見を取り入れて(笑)。

佐々木 そうですね。みんな、ちゃんとやりたいらしい。そこは強要できないんで、俺がむしろみんなの意見に乗っかってます。なるべく歌わないように気をつけてるんですけど。

―― ははははは。

佐々木 「ファスター」も音源で凝ったらあんなにいっぱい歌詞があるんだけど、ライブだったら1番を3回歌っても別にいいんですよね。それぐらいでいいのにな、と思ってますけど、バンドだからなあ。ナガイケジョーさんにも「亮介くん、ひとりでやっていないんだから」って言われて(笑)。「そうですね」って(笑)。

―― やっぱりバンドがあってこそなんですね。

佐々木 そうですね。19歳の頃までやりたくてもできなかったことがバンドだし。それがデカいかなあ。そのとき好きだったものとか刷り込まれたものとか憧れたものとか、一生消えない気がするなあ。

―― 19歳の頃までに刷り込まれたもの、好きになったものを今も追い求めているようなところはあるんですね?

佐々木 むっちゃありますね。スワンという所沢のジャズバーでバイトをしていたんですけど、そこに集まってくるおじさんやおばさんのかっこよさみたいな。ニルヴァーナのように早く死んだほうがかっこいいって知ってるんですけど、なんかダラダラ音楽を好きな気持ちを捨てられずに聴きにきちゃうかっこよさも知っているというか。そういう憧れも自分にはある。だから古いブルースとかジャズとか好きなのも、音楽というより、その状態に憧れているんじゃないかなとも思いますね。村上春樹じゃないけど時の洗礼を経ているものが偉いというか。本当は権威で生き残っているだけかもしれないんだけど、川端康成の小説がすごく見えるみたいな。お金持ちとか権威に弱いんですよ(笑)。シェイクスピアとかね。今も残っているものに「きっとすごいんだ」と思ってしまうというか。そのすごさを探しに行っちゃうからいいと思っちゃうみたいなことがめっちゃありますね。権威にマジで弱いという。

―― でも佐々木さんは権威になろうとは思わないですよね?

佐々木 今はなってないからだけで、もしかして上手いこと金持ちになっていたら、全然、なってたかもしれないですよ(笑)。逆に憧れているから権威が嫌いなのかなとか思うときもあります。男で長男だからフェミニズムの敵だっただろうなと思うし、男ばっかり集めてイベントやっちゃうし。それでいいのかな?と思う自分もいるし。誰かを無意識に苦しめながら生きている、みたいな。

―― 今、a flood of circleの現在地についてはどう捉えていますか?

佐々木 メンバーがいるのでバンドがある時点で幸せじゃんって思ってますね。だからもう全然OKです。あとは自己顕示欲とか自分の欲望との闘いの部分と、会社の人とかメンバーが納得がいくように、金のこととか働き方のことで、悩みをゼロにはできないけど、ちょっとハッピーになるといいよね、と。そう思えるようにもうちょっと頑張ろうかなみたいな感じですかね。きっと次のアルバムで武道館が1年後の話になるんですよね。だからそういう曲を作ったりして試しているんです。次をどうしようかといい意味で悩んでますね。

© 2024 DONUT

INFORMATION

『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』
2024年11月6日リリース
収録曲:01.WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース/02.虫けらの詩/03.ゴールド・ディガーズ/04.ひとさらい/05.Eine Kleine Nachtmusik/06.D E K O T O R A/07.ファスター/08.キャンドルソング/09.ベイビーブルーの星を探して/10.屋根の上のハレルヤ/11.11

LIVE

​a flood of circle TOUR 2024−2025

2024年
11月28日(木)千葉LOOK
11月29日(金)千葉LOOK
12月6日(金)堺FANDANGO
12月7日(土)堺FANDANGO(w / THE CHINA WIFE MOTORS)

2025年
1月23日(木)名古屋CLUB UPSET
2月9日(日)京都磔磔
2月11日(火・祝)広島セカンド・クラッチ
2月13日(木)松山Double-u studio
2月15日(土)高知X-pt.
2月16日(日)高松DIME
2月18日(火)静岡UMBER
3月6日(木)MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
3月8日(土)鹿児島県 SR HALL
3月9日(日)大分club SPOT
3月11日(火)岐阜yanagase ants
3月16日(日)横浜F.A.D
3月20日(木・祝)新潟CLUB RIVERST
3月22日(土)郡山HIP SHOT JAPAN
3月23日(日)盛岡 Club Change WAVE
4月5日(土)長野LIVE HOUSE J
4月6日(日)金沢vanvanV4
4月10日(木)奈良NEVER LAND
4月12日(土)出雲APOLLO
4月13日(日)福山Cable
5月9日(金)仙台MACANA
5月10日(土)水戸LIGHT HOUSE
5月15日(木)八戸ROXX
5月16日(金)八戸ROXX
5月18日(日)山形ミュージック昭和Session
5月23日(金)岡山PEPPERLAND
5月25日(日)福岡LIVE HOUSE CB
5月30日(金)札幌cube garden
5月31日(土)旭川CASINO DRIVE
6月5日(木)名古屋CLUB QUATTRO
6月6日(金)梅田CLUB QUATTRO
6月13日(金)Zepp DiverCity(TOKYO)
6月21日(土)沖縄Output

■ライブの詳細は諸事情により変更になる場合があります。必ず公式サイトやSNSで最新情報を確認してください。また上記以外のイベントの出演情報なども公式サイトやSNSでご確認ください。
公式サイト:
http://www.afloodofcircle.com
https://www.teichiku.co.jp/artist/a-flood-of-circle/

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