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2024.10.21 upload

2024年10月11日 東京キネマ倶楽部
ブギ連「第2回 ブギる心」Live Review

●写真=柴田恵理 テキスト=森内淳


 2024年10月11日、甲本ヒロト(vo,hca)と内田勘太郎(gt)によるブギ連のライブ「第2回ブギる心」を見に東京キネマ倶楽部まで足を運んだ。定時の19時半に暗転。まずはハープとギターのセッションから始まった。
ブギ連は2019年6月にファーストアルバム『ブギ連』をリリース。ツアーを行った。そのときも東京公演は東京キネマ倶楽部で行われた。2人の緊張感のあるセッションは今でも脳裏に焼き付いている。あれから5年が経ち、ブギ連は再始動。セカンドアルバム『懲役二秒』をリリースした。10月11日はアルバムツアーの初日だった。



 前回もそうだったが1曲目から甲本は内田のギターに酔っていた。「ここは特等席」という発言が示す通り内田のギターを楽しんでいた。そういう甲本を見て「君は演者だろ?」というツッコミたくなるどころか、お客さんは「そう思うのも当然だ」と思ったにちがいない。それくらい内田のギターはすごかった。「すごかった」なんて稚拙な表現だけれど、それしか言葉が出てこないくらいに「すごかった」のだ。何色もの音色のレイヤーを一度のストロークで表現する豊かさと静寂の空間を切り裂く稲妻のような衝撃が混ざりあったギターの音に終始やられっぱなしだった。
 内田がすごいプレイをするたびに甲本の興奮も増し、喜びのあまり顔や頭を手で覆っていた。それは観客の興奮の投影でもあった。ただ違う点は心のなかでは甲本と同じようにリアクションをしていたが、身体はというと金縛りにあったように、ただただ棒立ちになっていた。口をぽかんと開け「すげー」とかすれた声を絞り出すのがやっとだった。普段から内田のステージやブルースに精通している人からすると当たり前の光景なんだろうけど。
 2曲目の「ブルースがなぜ」で甲本が歌い出す。その瞬間「ボーカルもすげー」となった。
甲本の歌を初めて聴いたのが1985年のことだ。あれからおよそ40年間、甲本の歌をレコードで、ライブ会場で聴き続けている。そのすごさは十二分にわかっているのだけど、それでもすごいと思わざるをえなかった。会場に響き渡る甲本の歌は、曲に宿った感情を裸のままさらけ出していた。そのすべてが内田のギターと十分に渡り合えていた。つまりどういうことかというと、ブギ連はすごいということだ。




 今宵の破壊力に満ちた演奏はギターと歌とハーモニカというたった3つの要素によるものだ。甲本のMCから察するに、内田のアドリブによりリハとはずいぶんと違う方向に転んだようだ。甲本は「練習してきたことが全部台無し」と言っていた。それでも甲本はステージを心底楽しんでいた。甲本の楽しんでいる様を見て、内田はさらに楽しむ。決まり事を覆しても、なお観客を奮い立たせてしまうブギ連。このスリリングなやりとりもブルースということだろう。ぼくはマニアではないので、ブルースのフォーマットやら規則性がどこにあるのかは正確には答えられないが、ここに在るのはブルース風の何かではなくブルースだということだけははっきりとわかった。ぼくたちは今ブルースを楽しんでいるのだ!
 「ブルース&ソウル・レコーズ」のブギ連再始動記念特別号なる小冊子にこういう一節がある。
(引用はじめ)
「19世紀に形成されたブルースは、たしかにアメリカ黒人の心情を映し出した音楽でした。沈んだ気持ちを表すblueという言葉に由来し、悲しみを表現する音楽として広まったのは事実です。しかしブルースは実に多彩で自由な表現に溢れている音楽です。悲痛なんて微塵も感じさせない、享楽的なものもあれば、怒りを爆発させたり、ユーモアを交えて社会の不平等を訴えるものまで、さまざまです」
(引用おわり/「ブルース&ソウル・レコーズ」のブギ連再始動記念特別号 より)
 上記の文章をそっくり今作『懲役二秒』のレコード評として置き換えてもいいくらいだ。付け加えるならばこのアルバムは豊かさや希望や喜びまでも内包している。前作『ブギ連』から感情の振れ幅がさらに広がった印象がある。
 このアルバムのなかで個人的に最も好きな歌が「畑の鯛」だ。ハイヌヴェレ(=五穀豊穣をあらわす神話)のような歌詞は聴いているだけでも幸せな気分になる。どんなことが起こっても「斜め上からお前を捕まえる」と歌う「トッポい世界」もいい。極めつけは「49号線のブルース(スリーピーとハミー)」だ。1976年、スリーピー・ジョン・エスティスとハミー・ニクソンは憂歌団とツアーを行った。そのときのことを歌ったロードムービーのような歌だ。言葉こそ少ないが、頭のなかには広大な風景が広がっていく。
この3曲はそれぞれ4曲目(「畑の鯛」)8曲目(「トッポい世界」)13曲目(「49号線のブルース(スリーピーとハミー)」)に披露された。「畑の鯛」のときは甲本の身振りがユニークで会場に笑いに包まれた。ブルースは悲しみだけを届ける音楽ではないのだ。



 東京キネマ倶楽部という決して広くはない限られた空間で甲本と内田の歌と演奏を聴けるというのはとんでもなく贅沢なことだ。ライブが進むにつれ、そういう思いがどんどん膨れ上がっていった。もしも世の中に夢やロマンがあるとすれば、それは高級車や高級時計のような物質に宿るのではなく、こういったライブ会場のようなところに突然現れるものではないかとも思った。あるいはターンテーブルの上に。『懲役二秒』はそんなアルバムでもある。
 14曲目にセカンドアルバムの表題曲「懲役二秒」を演奏。ファーストアルバムの表題曲「ブギ連」で本編は終了。アンコールが始まる前に「次の曲はぼくはやることがなくて、勘太郎さんのギターを楽しんでください」と甲本がMC。内田の演奏を甲本と客が聴き入るという、ブギ連ならではの展開に。最後は虫の音にのせてアルバム最後の曲「ブラブラ」を演奏。贅沢なブルースの時間はたおやかに終わりを迎えた。


SET LIST
01. ブギ連ジャイブ
02. ブルースがなぜ
03. やっとられん
04. 畑の鯛
05. オイラ悶絶
06. 闇に無
07. 気まぐれに首が
08. トッポい世界
09. バットマン・ブルース
10. 軽はずみの恋
11. あさってベイビイ
12. 黄金虫
13. 49号線のブルース(スリーピーとハミー)
14. 懲役二秒
15. ブギ連

EN
16. 波を越えて
17. ブラブラ

© 2024 DONUT

INFORMATION

セカンドアルバム『懲役二秒』
2024年10月2日リリース
収録曲:1. 懲役二秒/ 2. 畑の鯛/ 3. 痛えで/ 4. トッポい世界/ 5. フガフガ/ 6. 気まぐれに首が/ 7. 黄金虫/ 8. やっとられん/ 9. 49号線のブルース (スリーピーとハミー)/ 10. ブラブラ


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