2024.09.06 upload
hotspring インタビュー
最初からテーマをぶち上げて、そこに向かっていけたっていうのは初めてでした――イノクチタカヒロ
hotspringがEP「ANTHEM VOLT」をリリース。イノクチタカヒロは前回取材時に「パンクアルバムを作りたい」と公言していたが、見事に有言実行。スピーディでパンキッシュなロックンロールを前面に押し出した作品をつくりあげた。一言でいえば原点回帰ということになるのだけれど、原点を通り越してもっと自らの衝動の核心に迫ったような印象がある。パンク的なアプローチの曲を何曲か作って、それを集めて作品を構成したということではなく、1曲目から5曲目(CDはボーナストラックあり)まででひとつの物語を紡ぐような、コンセプトアルバムのようなEPに仕上がった。配信で聴く人も1曲目から5曲目までを通して「1曲」として聴くことで「ANTHEM VOLT」の真髄に触れられると思う。ここに至った経緯を訊いた。
●取材・文=森内淳
―― 新作「ANTHEM VOLT」が完成しました。バンド史上最高傑作だと思います。
イノクチタカヒロ マジすか?
―― 前回、取材したときに「次はパンクのアルバムを作りたい」と言っていたのですが、それが見事にハマりましたね。
イノクチ たしかに、このあいだの取材のときにパンクをやろうと言ってたんですけど、そのときはまだ曲が出揃ってなかったんですよ。たぶん「流行病」はできてたと思うんですけど。
―― なぜパンクを打ち出そうと思ったんですか?
イノクチ 2023年にはけっこう歌に寄った曲をリリースしましたよね。
―― そうですね。あれはあれでhotspringの歌の特徴をとらえていて、よかったと思います。
イノクチ ただまあライブをやっていてセットリスト的に「もうちょっとここでガーッといきたいのになあ」という意見がメンバーのなかから出てきたんですよ。あとはYAPOOLという若手バンドがツアーに呼んでくれたり、わりとそういう若手のバンドから声がかかる機会が多くて。そのとき「このままやってても勝てない」と思ったんですよね(笑)。
―― 若さには勝てない、みたいな?
イノクチ それは正直あって、YAPOOLとのツアーが始まるときに「なんでもいいからとにかく新曲を作らなきゃ!」ということで、ツアーが始まるギリギリのときに「流行病」を作ったんです。それで、1曲目にやってたんですけど、やっぱり「ライブをやっていくなかでこういうバーストしていく感じの曲はいいな」というふうに思ったんですよね。そうすると、それをどんどん突き詰めたというか、ここで終わるのではなくて、さらに加速していくような曲を作りたくなったんです。だから、ライブありきですよね。去年あたりは逆に「30代のかっこよさを出していこうかな」と思ってましたからね。だけど、いざライブでやってみるとちょっとムキになる部分がどうしても出てくるので、今回はそこを突き詰めたって感じですよね。若いバンドとやるとこっちも意地になるんですよ(笑)。もっと速く、みたいな。すると曲もどんどん短くなっていって。「スピーディでパンキッシュなロックンロールの分野で若いバンドに負けるようだったら俺ら駄目じゃね?」っていう感じもしましたし。
―― 去年はちょっと30代の大人を気取ってみたけど、パンクが性に合っているんじゃないか、と。
イノクチ けっきょくそういうことです(笑)。元いた位置に戻ってきた、みたいな。
―― 去年は30代の身の丈といいながら、むしろ背伸びしていたのかもしれませんね。
イノクチ かもしれないですね。(近藤)紀親が正式加入したので、違うフェーズにいこうと思ってたんですよ。でもけっきょくライブにフラストレーションが残ったまま終わるというか。出し切った感がないなっていうライブが続いて。
―― 去年の曲もよかったけど、結果、今回の作品のほうが破格にいいですからね。
イノクチ 俺もそう思います。
―― 原点に戻ったとはいえ、ここまでパンクを全面に押し出した作品は今までリリースしてこなかったですよね。
イノクチ 作る前に「これでいこう」ってコンセプトみたいなことをメンバーで話し合ってから作ったのは今回が初めてなんですよ。曲ができていくなかで、「今回はこんな感じになったな」っていうことはあったんですけど、初めからテーマをぶち上げて、そこに向かっていけたっていうのは初めてのことで。だからこそ作品に統一性があるというか。
―― メンバーもそういう気分になっていたんですか?
イノクチ 俺が一番なっていたかもしれないですけどね。ライブの完成度を上げていこうというなかで、だったら新曲で構成していきたいと思っていて。メンバーはそういう俺の気持ちを理解してくれたと思います。初めはぼんやりしていたかもしれないですけど、曲ができていくなかで、曲で見せていくというか、曲でわかってもらえたというか。
―― 曲の構成もシンプルになりましたよね。
イノクチ 以前だったら、もうちょっと歌詞を付け加えて、ギターソロも付け加えてってやっていたんですけど、今回は「要らない、要らない」みたいな。「バーン、バーン、終わり! それでいこう!」という感じでしたね。そういう意味ではすごく潔い曲作りだったかもしれないですね。歌詞も口からでまかせでできたような曲もありますから。
―― 「午後のロードショー」にいたっては歌詞が3行しかないという(笑)。
イノクチ あれもでっちあげですね(笑)。
―― かっこいいですよね。
イノクチ そうっすよね。
―― この3行で言いたいことは言えているという。
イノクチ 作った日はスタジオに入る日で、曲をもっていかないとやばいとなって、リフだけは思いついて、歌詞はなかったんですよ。だからその場で、頭にある言葉を歌ったって感じですね。歌詞は「言い切り」じゃないですけど、わざとそういうふうにしたほうがいいのかなって今は思っています。
―― ソングライターとしての葛藤はなかったんですか?
イノクチ ありましたよ。だけど、もっと肉体的な言葉というか、そうじゃないと伝わらないだろうな、という部分もあって、今回は文脈よりも単語のインパクトを重視しました。迷いっていうか、その方法を見つけるまで時間がかかりましたけど。そういう意味では歌詞の書き方も変わったかもしれませんね。コードじゃなくてリフでいく、じゃないけど。
―― よく振り切れたなと思いました。
イノクチ 振り切れましたよね。今回は言葉よりもサウンドだなというのが絶対的にあったんですよね。俺の詞がどうこうというよりは4人が出している音、こういうライブをやっているというモードが伝わるような音というか、それを表現したかったのが一番ですね。俺も楽器みたいな。そういう感じですね。
―― このEPをレコーディングしたことでライブも必然的に変わっていったんじゃないですか?
イノクチ そうですね。ライブの構成も、1曲やって、それが終わったら次の曲をやってというよりは、このEPに入っている5曲(※CDは6曲入り)があることで、組曲じゃないですけど、つなぎ目がないようなセットリストの組み方に変わっていったんですよね。
―― 組曲とは言い得て妙ですね。パンクの勢いを詰め込みましたというと一本調子な印象を受ける読者もいると思うんですけど、このEPはそうではないんですよね。曲間や曲順も含めてちゃんと意味があるという。
イノクチ そうなんです。ライブもそういうふうにやっているんですよ。
―― 先程、イノクチさんは「去年、次のフェーズを目指した」と言ってましたけど、まさにこの作品こそが「次のフェーズ」だと思いました。
イノクチ 俺もそれはやってから思いました(笑)。原点に戻ったような感じなんだけど、違うというか。このEPには変な衝動がありますからね。
―― スムーズにこのモードに切り替えられたんですか?
イノクチ 自分に制限をつけて、パンク以外、聴かないようにしました(笑)。そしたら、俺、戻ってこれなくなっちゃって。
―― 戻ってこれなくなった?
イノクチ レコーディングが終わるまではパンクしか聴かないと思ってたんですけど、レコーディングが終わっても、なんかもうパンク以外聴けなくなっちゃったんですよ。今やパンクを聴かないと落ち着かない、みたいな(笑)。
―― 面白いですね(笑)。
イノクチ hotspringの音楽にはあんまり反映してこなかったような1980年代のハードコアとか90年代のメロディックパンクとかメロディックハードコアとか、あの辺をけっこう掘り下げて聴いていたんですよ。この辺りの音楽も、昔からおさえるべきところはおさえていたんですけど、このジャンルを誰かに語れるほどは聴いてなかったんですよ。中1とか小学校6年生の頃とか音楽を好きになった頃は聴いていたんですけど、だんだんいろんな音楽、60年代とか70年代の音楽を聴いていくにつれて、ちょっと忘れ去っていたようなところもあって。だから俺にとっても堀り甲斐があるというか。
―― パンクの裾野も広いですからね。今回のEPでいうと「東京上北沢物語」なんかはメロディックパンクの要素が入っていますよね。メロディは今までのhotspringですが、アプローチが違いますよね。
イノクチ 「東京上北沢物語」は最後にできたんですけど、メロディに関して言うと、やっぱりこういうメロディの曲がないとさすがにhotspring として成立しないなあと思っていて、ファンを困惑させないように作りました。とはいえ、今までとは違うアプローチでやりたいというのがあって、いつもだったら速めのエイトビートでいくところをツービートでやっているんですよね。ツービートは絶対に1曲は作ろうと思っていたので、やれたのはよかったと思っています。やってて気持ちよかったですしね。
―― hotspringu得意のメロディと新しいサウンドのアプローチの融合は面白かったですね。このEPのなかでいいフックになっているし。
イノクチ そこは上手くいったと思います。
――「2023」の歌詞だけが少し傾向が違いますよね。
イノクチ 前回の取材の日にチバ(ユウスケ)さんの訃報があったじゃないですか。あの日が訃報の報せがあった当日だったんですよね。それで俺ら2人ともめっちゃズーンってなってたじゃないですか。
―― 実はそうだったんですよね。
イノクチ 去年、俺の血液みたいになっている人たちが一気に亡くなっちゃったんで、「2023」の最後の何行かは、その人たちの有名なフレーズを歌詞に入れ込んだんです。「世界の終わり」と「Lemon Tea」と「STAY GOLD」。俺なりの鎮魂歌というか。
―― 敬愛する人たちへのオマージュであり……
イノクチ そうなんです。だからあの取材のあとにすぐに作りました。
―― 「2023」に関して言うと、今までのhotspringの歌詞の傾向に近いんですが、「ANTHEM VOLT」の文脈のなかでは、そういった曲もパンクEPというフォーマットのなかで妙にハマってるという。パンクを前面に打ち出すことで今までの曲も違うかたちで生きてくるような気がしました。
イノクチ そうですね。
―― そういうこともふくめて、バンドが新たなスタートを切ったんだなあと思いましたね。
イノクチ それに関しては、紀親の存在がデカいような気がしますね。俺のなかでは、また、もう一回始まるというか。今の4人で1曲ずつ配信というのではなくて、何曲か集めて集合体で出したいというのがあったので。それを紀親がさせてくれたというか。ちょっと前までは「俺は俺の世界で鳴らしたい」って感じになってたかもしれなくて、それが今は「バンドで鳴らしたい」というのが大前提としてあるんですよね。俺はバンドのメンバーのひとりというか。そこに気付かされたのはhotspringがバンドとして固まってきたというのがあるかもしれないです。紀親が正式なメンバーになったことによって、サポートメンバーを入れたバンドではなくて、hotspringはちゃんとした4人組のバンドなんだっていうことでやれているから。
―― 今まで紆余曲折がありましたからね。
イノクチ だから今はめっちゃ調子いいです。最近はライブでもけっこうかませているんで。
―― 次の作品も、そのまた次の作品も、この感覚をベースに作っていければいいですよね。
イノクチ そうなんですよね。曲作りも開き直りじゃないけど、前みたいにもっと作り込まなきゃいけないみたいなのも、俺らのなかではないんで。かっこいいところで終わるというね。俺としては手応えがあるんですけど、まだやり尽くした感じではないんで。もうちょっとこの路線でやれることをやってみたいなとは思っています。だからまた来年、こういう作品が出せたらいいなとは思っているんですよ。もうちょっと曲数を増やしてね。今回のEPは1年もかけてやったのに、5曲で15分もなかったという(笑)。
© 2024 DONUT
INFORMATION
EP「ANTHEM VOLT」
2024年9月6日配信リリース
2024年9月13日会場限定CDリリース
収録曲:01.流行病/02.午後のロードショー/03.東京上北沢物語/04.I'm Your Enemy/05.2023/06.WL/WH(再録・CDのみ収録)
LIVE
hotspring Tour “ANTHEM VOLT”
2024年
9/13(金)新宿red cloth(w/the myeahns)
9/20(金)仙台FLYING SON(w/the myeahns,YAPOOL,Killer Beach)
9/22(日)高崎the groove(w/STANCE PUNKS,YAPOOL)
9/26(木)大阪・堺FANDANGO(w/東京少年倶楽部,くっつくパピー)
9/27(金)名古屋・今池HUCK FINN(w/YAPOOL,THE NOiSE,サテライト,ザ・ダービーズ)
10/18(金)福岡LIVEHOUSE OP's(w/Little Pink Summer,爛漫天国,アンディー)
10/19(土)大分club SPOT(w/CHAOS)
■ライブの詳細は諸事情により変更になる場合があります。必ず公式サイトやSNSで最新情報を確認してください。また上記以外のイベントの出演情報なども公式サイトやSNSでご確認ください。
公式X:https://x.com/hotspring_band