2024.07.23 upload
US(アス)インタビュー
バンドを結成する前からフジロックのことは知っていたから本当に夢のようだよ
―― テオ・ヒルヴォネン
「FUJI ROCK FESTIVAL’24」に初出演を果たすロックンロールバンド、アス(US)。彼らはフィンランド出身の5人組で、テオ・ヒルヴォネン(vo&gt)、ラスムス・ルオナコスキ(ba)、マックス・ソメルヨキ(gt&vo)、パン・ヒルヴォネン(hca)、レーヴィ・ヤムサ(dr)により2021年に結成された。ハーモニカを擁するバンド編成や、ガレージパンク、ブルース、ロックンロールを土台にしたソリッドなサウンドはライブでその真価を発揮し、グラストンベリー・フェスティバルなどでも大絶賛。活動拠点であるイギリスからその熱波を広げているさなか、5月にデビューアルバム『アンダーグラウンド・ルネッサンス』を日本先行リリースし、今月末にはいよいよフジロックへ。しかもフィーチャリングを含め3日間にわたり4ステージに登場するほか、フジロック後の単独公演も決定という注目ぶりだ。かく言う私もフジロックのラインナップ発表でアス(US)を知ったのだが、興味をそそられて映像を見た途端にやられてしまい、メールインタビューをオファー。バンド結成の話からザ・リバティーンズ所有のスタジオで1日でレコーディングしたというアルバムのこと、フジロックへの思いなど、テオ・ヒルヴォネンが答えてくれた。あらゆる音楽ルーツを辿れる現代に誕生した、新世代が鳴らすロックンロールの息吹をぜひ体感してほしい。なお、彼らのバンド名「US」はフジロックの常連DJ/ミュージシャンのギャズ・メイオールが名付けたそうだ。
●インタビュー作成・テキスト=秋元美乃
―― 1stアルバム『アンダーグラウンド・ルネッサンス』、とてもかっこよくて興奮しました。まず、アス(US)というバンドはどのように誕生したのでしょうか。結成のいきさつを教えてください。
テオ・ヒルヴォネン ラスムス・ルオナコスキと僕は高校で出会って、別のドラマーとバンドを結成したんだ。その数ヵ月後、僕は兄弟(マックス・ソメルヨキとパン・ヒルヴォネン)とジャムっていたんだけど、彼らは僕がバンドのために書いた曲を僕以上に知っていることに気づいたんだよね。それでラスマスと一緒に、彼らもバンドに参加してもらうことに決めたんだ。その後、ラスマスの旧友だったレーヴィ・ヤムサも加わって、僕たちはアス(US)になったんだよ。
―― ハーモニカがいる5人のパート編成もかっこいいですね。
テオ ありがとう。このアイデアはドクター・フィールグッドに影響を受けたんだけど、ジェイムズ・コットンやリトル・ウォルターがハーモニカを吹いていたマディ・ウォーターズのバンドにも影響を受けているよ。そういうロックの文脈の中で、同じようなことができるんじゃないかと考えたんだ。
―― バンドを組むにあたり、目指したバンド像はありましたか?
テオ イメージとか、そういうことはあまり考えていないかな。僕らにとって一番大切なのは、音楽とルックスが正直であることで、作り物や計画的なものではないことなんだ。それが、自分たちを「US」と呼ぶ理由でもある。これ以上、正直な名前はないと思うよ。
―― 今は、どんな時代の音楽も同じように聴くことができますが、ご自身はどんなふうに音楽に触れてきましたか?
テオ 多くは両親から受け継いだものになるんだけど、面白いことに、僕たちはその音楽が新しいものなのか古いものなのかなんて知らずに聴いていた。もし何か自分の心に訴えかけるものがあったり、親しみを感じたりするのであれば、それが昨日書かれた曲であろうと、70年前に書かれた曲であろうと関係ないんだよね。
―― 一番衝撃を受けた音楽との出会いを覚えていますか? 覚えていたら、そのときのことを教えてください。
テオ たくさんあるけれど、僕たち全員、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのウッドストック・フェスティバルでのライブ・パフォーマンスに魅了された時期があって。しばらくのあいだ、ステージに上がる数分前に、彼らが「I Want To Take You Higher」を演奏している映像をいつも見ていたよ。
―― メンバーの音楽性のバックグラウンドは似ていますか?
テオ パンとマックスと僕は、ミュージシャンの両親のもとで育ったからバックグラウンドも似ていて、いつもたくさんの音楽を聴いてきた。レーヴィの父親もミュージシャンだから彼も同じような感じだった。楽器は、マックスはたぶん3歳か4歳のときにギターを弾き始めたけど、他のメンバーは14歳くらいのときに始めたんだ。
―― アルバム『アンダーグラウンド・ルネッサンス』はダイレクトな生々しさがあって、まるでライブを体験しているようなアルバムだと思います。あらためてご自身の手応えはいかがでしょうか?
テオ とても満足しているし、きっと他の方法ではできなかったと思う。このアルバムに収録されているほとんどの曲は、スタジオで一緒にライブ・レコーディングされたもので、こういうやり方ができたことをとても嬉しく思っているんだ。それに、素晴らしいフィンランド人のプロデューサー、リク・マッティラにミックスをしてもらえたことも、信じられないほど幸運だった。
―― ザ・リバティーンズのスタジオで1日でレコーディングしたと聞きました。あの熱量の11曲を1日でレコーディングしたなんて驚きなんですが、レコーディングはどのように進められたのでしょうか?
テオ ありがとう! レコーディングを始めるにあたっては、アルバム1枚分の曲をレコーディングしようとは考えていなかったんだ。レコーディングしたいと思った曲を2、3回演奏して、次の曲に移るだけ。そうすることで、すべてが本当に自然で新鮮に感じられたんだよね。また、その瞬間に自分たちがふさわしいと感じた曲を演奏することで、アルバムのトラックリストが形作られていったんだ。レコーディング・エンジニアとして素晴らしい仕事をしてくれたジェイソン・スタッフォードに心から感謝しなくちゃね。
―― 曲作りで大切にしているポイントはありますか?
テオ 間違いなく、音楽的にも歌詞のレベルでも、曲は常に面白くなければならないと思う。どういうことかと言うと、曲を長引かせたり、不必要に長くしたりしたくないんだ。ダイナミクスもとても重要だし、いつも同じような曲を書かないということも重要だ。すべての曲は互いに違うものだと思いたいし、同じ構造を繰り返さないようにするという意味でもそうしてるよ。僕が曲を書くときはいつも、最初のアイデアを思いついた瞬間に完成させて、すぐに(自分のためだけであっても)完全なバージョンをプレイするようにしてる。その後、曲の準備ができたと感じるまで、パートや歌詞を書き直すんだ。
―― フィンランドからイギリスに拠点をうつしたことで、変化したことはありますか?
テオ それは僕らに大きな影響を与えていると思う。ライブシーンは素晴らしいから、さらに演奏するようになった。また、全国を旅して、まったく知らない土地に行くことは、間違いなく曲作りや人生全般の捉え方にも影響を及ぼしているよ。
―― 今回フジロック初出演になりますが、フジロックにどんな印象をお持ちですか?
テオ バンドを結成する前からフジロックのことは知っていたから本当に夢のようだよ。初めてこのフェスティバルのことを知ったのは2013年で、ウィルコ・ジョンソンとゲイリー・クラーク・ジュニアが出演していることに気づいたときだったと思う。毎年ラインナップが素晴らしいから、リスナーとしてだけでもフジロックに行きたいと思っていたんだ。今年のラインナップに加わることができて、とても光栄に思っているよ。
―― 3日間のなかにはアコースティックセットもありますが、アコースティックでも普段よく演奏しているのでしょうか。
テオ バンドを始めたばかりの頃は、エレクトリック・ライブと同じくらいアコースティック・ライブをやってた。そうすれば、より多くの会場で演奏できるし、移動もとても簡単だったからね。今でもたまにアコースティック・ライブをやるけど、みんなとても楽しんでいるよ。実際、新曲ができるたびにアコースティックで演奏するようにしているんだ。そうすれば、曲自体がうまくいくかどうかがはっきりするから。イギリスでライブを始めた頃は、アコースティック・ギターとかが置いてあるカフェや小さなパブに行って、そこで演奏していいかどうかよく尋ねたりしていたね。
―― フジロックで楽しみにしている出演者はいますか?
テオ たくさんいるよ! レイ(RAYE)、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ、フォンテインズ D.C.、クリストーン“キングフィッシュ”イングラム、クラフトワークなどなど。
―― フジロックのあとにはワンマン公演も決定と、盛りだくさんの来日になりそうですね。リスナーに向けてひとことメッセージをお願いします。
テオ そうだね! 東京で自分たちのショーをやるなんて、信じられない気分だよ! 皆さんにとって素晴らしい夏となりますように。そしてフジロックや東京で皆さんに会えることを楽しみにしているよ。アルバムを楽しんで、大音量で流せば、隣の人も楽しんでくれるはず。そうなるといいな!
―― メールインタビューに答えていただきありがとうございました! ライブを楽しみにしています。道中お気をつけて日本にいらしてください。
テオ どうもありがとう!
© 2024 DONUT
●フジロック、今週末いよいよ開催!
「FUJI ROCK FESTIVAL ’24」(以下、フジロック)がいよいよ今週末に開催! 会場を苗場に移して今年25回目を迎えるフジロックは、出演陣はもちろんのこと、苗場スキー場という広大な自然と共生する場内、進化するホスピタリティなどさまざまな面において来場者とともに歴史を刻んできた一大フェスだ。その魅力については弊誌でもことあるごとに触れてきたが、もしフジロックの魅力を端的にいうなら「多幸感」のひと言に尽きるだろう。コロナ罹患や諸事情で行けない年があり、昨年2年ぶりに参加できたフジロックは、会場に足を踏み入れただけで胸がいっぱいになるほど私の心を揺さぶった。感覚的な言い方にはなるけれど、想像力と思いやり(と準備)があればフジロックを目一杯楽しめる。どう過ごしても、それがかけがえのない体験になる。もし迷っている方で行ける状況があるならば、ぜひとも参加の検討をおすすめしたい。
ということで、今年のラインナップから洋楽のロックンロールバンドを中心に、とくに気になるメンツをピックアップしてみようと思う。
●7月26日(金)
シザのキャンセルを受けザ・キラーズがヘッドライナーに大決定。キラーズは2004年のレッドマーキー出演に続く20年ぶりのフジロック(2009年はキャンセル)。海外ではスタジアムやフェスなどを席巻している彼らがついに日本でもヘッドライナーでの登場ということで、ファンにとってもバンドにとっても感動的な光景が広がりそうだ。
フリコはデビューアルバム『ホウェア・ウィーヴ・ビーン、ホウェア・ウィ・ゴー・フロム・ヒア』がApple Musicの日本のトップアルバムチャート11位に入ったことでも話題のUSインディーシーン注目のバンド。USインディーといっても、バラードからパンクまで詩的かつ衝動みなぎるサウンドはメインストリームにのるポップさとパワフルさを持っている。
フジロックのハウスバンド、池畑潤二率いるROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAには今年、海外からアス(US)がフィーチャリングで初参加。洋楽邦楽の垣根のない現代だからこそ、こういう試みも実現しやすいのだろう。どんなセッションになるのか期待が募る。
そして「ホワイトステージ」では、鋭い嗅覚でアンダーグラウンドからメジャーまで股に掛ける韓国出身のDJ/プロデューサー=ペギー・グーや、ファンキーでポップな音楽性と存在感で世界を虜にするレミ・ウルフという並びも目玉のひとつ。ほかにも「レッドマーキー」のキング・クルール、フローティング・ポインツ、電気グルーヴ、「フィールドオブヘブン」の渋さ知らズオーケストラ、家主、上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonderなど初日から多彩なステージが目白押し。
●7月27日(土)
土曜日は御大クラフトワークを筆頭にベテラン勢から若手まで大充実。「グリーンステージ」のヘッドライナーを飾るクラフトワークは1970年の結成以来、サウンド、ビジュアルを含め革新的な手法でエレクトロニックミュージックを発展させたテクノバンドの雄。今回は2Dのステージになるのか、3Dのステージになるのかと噂されているが、そんなワクワクも踏まえて当日を待ち侘びているファンも多いだろう。
ポーティスヘッドの来日は活動再開後も叶わないままだが、この度初ソロアルバム『ライヴス・アウトグロウン』を発表したばかりのボーカリスト=べス・ギボンズがフジロックで初来日を果たす。哀愁美を湛える歌声と、ポーティスヘッドとはまた一線を画すサウンドをライブで味わえる貴重な機会だ。
佇まいもパフォーマンスも美学あふれるアートロックが旋風を巻き起こしている新鋭5人組=ザ・ラスト・ディナー・パーティーも「グリーンステージ」へ。いま彼女たちが各地で生み出している熱狂をぜひとも現地で浴びたいところ。
そして「ホワイトステージ」はTHE BAWDIESやサンファらと続くなか、瑞々しい音楽性が弾けるベッドルームポッププロジェクト=ガール・イン・レッドがトリに立つ。自身の内面性をポップに放つステージに注目が集まる。
「レッドマーキー」にはメッセージ性あふれるリリックも話題のシカゴ発の女性ラッパー=ノーネームや、ローファイ、ヒップホップからポストパンク、ゴスなどジャンルをごちゃ混ぜにしたポップさをもつアイドレスが登場。
「フィールドオブヘブン」に名を連ねる25歳のブルースミュージシャン=クリストーン“キングフィッシュ”イングラムや、キティ・デイジー&ルイスのキティ・リヴによる、ルーツミュージック由縁の音楽性が堪能できるステージもフジロックにぴったりだ。
●7月28日(日)
最終日のヘッドライナーはノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ。あの曲この曲の披露に苗場の大合唱が予想される。そして多彩なジャンルを織り込んだ楽曲が熱い支持を受けるUKのシンガーソングライター=レイ(RAYE)やルーファス・ウェインライトと、「グリーンステージ」の充実ぶりもすごいなか、「ホワイトステージ」にはハードコアシーンの未来を鳴らすターンスタイルをはじめ、オルタナ界のカリスマ=キム・ゴードンが最新作『ザ・コレクティブ』を携えて登場。さらに今年結成40周年を迎え、3月に『Glasgow Eyes』をリリースしたジーザス&メリー・チェインもやってくる。このジーザス&メリー・チェインのステージには、プライマル・スクリームのベーシスト、シモーヌ・バトラーがバンドメンバーとして帯同する可能性が高いのでそこも要チェック。
「レッドマーキー」にはライドにフォンテインズ D.C.と見逃せないバンドが名を連ねるなかアス(US)という新星が登場。彼らはフィンランド出身の5人組で「ドクター・フィールグッド・スタイルのパンク・ブルースに全盛期のラモーンズの気迫が相俟っていた」とMOJO誌に評されるなどロックシーンの注目株だ。くわしくは上述のインタビューをぜひご覧いただきたい。
また、LOSALIOSとThe Birthday(クハラカズユキ・ヒライハルキ・フジイケンジ)によるロックパーティ WEEKEND LOVERS 2024 “with You”や、歌とサウンドでビッグバンを起こすようなステージを繰り出すbetcover!!も出演。
「フィールドオブヘブン」では熱い注目を受けるCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINのほか、CELEBRATION OF THE METERSやオールマン・ベッツ・バンドという、レガシーのリスペクトステージが続く。
メインステージを軸に紹介したが、フジロックには「ジプシーアヴァロン」「苗場食堂」「ROOKIE A GO-GO」「GAN-BANスクエア」「ピラミッドガーデン」「クリスタルパレステント」「DAY DREAMING」「BLUE GALAXY」といったステージや空間がまだまだ存在する。深夜の「レッドマーキー」はライブやDJが繰り広げられ、朝まで眠らないステージだ。本当は見どころをあげたらきりがない。そして、こうして気になるメンツをピックアップしながらも、いざ現地では思わぬ音楽との出会いにまったく予定と異なるアクトに釘付けになっていたりもする。そしてライブを楽しむだけでなく、ただただのんびり過ごすのも、それこそフェスの醍醐味といえる。
コロナ禍を乗り越え活気を取り戻したフェスシーン。インバウンドの影響を踏まえても、今年はさらなる盛り上がりがみられることは間違いない。苗場の美しい山々を舞台に自然を慈しみながら過ごす3日間は、日本が世界に誇る「フジロックという体験」だ。1日でも、日帰りでも、その体験にぜひ触れてみてほしい。「FUJI ROCK FESTIVAL ’24」、いよいよ開催!
「FUJI ROCK FESTIVAL '24」
2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)
新潟県湯沢町苗場スキー場
公式サイト:https://fujirockfestival.com
INFORMATION
アス『アンダーグラウンド・ルネッサンス(Underground Renaissance)』
2024年5月22日リリース
収録曲:01.Night Time/02.Snowball Season/03.Hop On A Cloud/04.Paisley Underground/05.Just My Situation/06.In & Out My Head/07.Citroen Blues/08.Carry Your Bag/09.Don't Call The Cavalry(Radio Edit)/10.While You Danced/<日本盤ボーナストラック>11.Black Sheep
LIVE
●「FUJI ROCK FESTIVAL '24」
2024年7月26日(金)27日(土)28日(日) 新潟県湯沢町苗場スキー場
公式サイト:https://fujirockfestival.com
>>US出演日
7月26日(金)12:45〜13:45 ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRA(feat. トータス松本、TOSHI-LOW、後藤正文、GLIM SPANKY、US)@グリーンステージ
7月26日(金)27:15〜28:00 US @クリスタルパレステント
7月27日(土)15:00〜15:20 US(アコースティックライブ)@GAN-BANスクエア
7月28日(日)12:40〜13:30 US @レッドマーキー
● US単独公演
2024年7月30日(火)WWW X
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4212