2023.2.22 upload
DONUT 14〜THE CLASH MANIA 高橋浩司コレクション 連動企画
■ 3rd Album『ロンドン・コーリング』(London Calling)
1979年12月14日英国リリース(2枚組)
(Disc1)1 .ロンドン・コーリング/2 .新型キャディラック/3 .ジミー・ジャズ/4 .ヘイトフル/5 .しくじるなよ、ルーディ/6 .スペイン戦争/7 .ニューヨーク42番街/8 .ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット/9 .クランプダウン/10 .ブリクストンの銃 (Disc2)1 .ロンゲム・ボヨ/2 .死か栄光か/3 .コカ・コーラ/4 .いかさまカード師/5 .ラヴァーズ・ロック/6 .四人の騎士/7 .アイム・ノット・ダウン/8 .リヴォリューション・ロック/9 .トレイン・イン・ベイン
―― ロックバンドがサードアルバムくらいで新しい音楽に目覚めて方向転換をしてどんどん駄目になっていくパターンというのがあって。
高橋 それをやると、ほぼ9割が駄目になりますよね(笑)。
―― ところがクラッシュの場合、むしろ方向転換をしたサードアルバムからの評価が高いという。方向転換がここまでうまくいった背景は何だと思いますか?
高橋 1枚目を作ってパンクムーヴメントで括られるのが窮屈だという思いもあって、2枚目ではパンクという言葉に乗りながらアメリカにも色気を出すようなアルバムを作って。そういう意味ではクラッシュは1枚目と2枚目でちゃんと時代に則してやれたと思うんです。しかもロックバンドとしての種も撒けたと思うんです。だからこそ3枚目で本来クラッシュがやりたかったことをできたんじゃないかなと思うんですよね。
―― 『ロンドン・コーリング』はクラッシュにとっての新境地ではない、と?
高橋 クラッシュ本来の姿が『ロンドン・コーリング』なんじゃないかと思いますね。
―― むしろ本領発揮だ、と。
高橋 メンバーもこの間でかなりいろんな音楽を吸収してきたと思いますし、一番自由に作れたアルバムなんじゃないかなと思います。コンセプトアルバムとしても最高の作品だと思います。
―― コンセプトアルバムというと?
高橋 ぼくはあの当時のロンドンのサウンドトラックだと思ってるんですよ。『ロンドン・コーリング』というタイトルもふくめて、当時のロンドンのすべてがここに入っているという。これはあくまで想像ですが、クラッシュのメンバーはちゃんと街へ繰り出して、いろんなレコードを買って、それぞれ音楽の情報を交換しあっていたと思うんです。その上で作った当時のサウンドトラックが『ロンドン・コーリング』なんだと思います。当時のロンドンの実況録音盤みたいな作品。だからアルバムとしてすごく生々しいですよね。このアルバムを聴くとすぐにあの当時のロンドンに行けるような気分なれるという。
―― ジャズ、レゲエ、ダブ、ロカビリーと、当時ストリートで流行っていたいろんな音楽が全部入っていますよね。ちなみに高橋さんのお気に入りの曲は何ですか?
高橋 「ヘイトフル」も好きだけど、一番好きなのは「アイム・ノット・ダウン」ですね。タイトルと楽曲とミック・ジョーンズの切ない声の組み合わせがいいですよね。アルバムの最後を飾る「アイム・ノット・ダウン」「リヴォリューション・ロック」「トレイン・イン・ベイン」という流れは最高ですね。あれはもう素晴らしい楽曲の3連続で、もうしびれますね。クラッシュのかっこいいところが全部入ってる。あの3曲を通して聴くと、ビートルズの『アビイ・ロード』の最後のメドレーを聴いているような感覚にいつもなるんですよね。
―― それはすごい。さっそく聴き直します。
高橋 だけどクラッシュがすごいのはビートルズのようにこれで終わりじゃなくて、さらに高みに行くんです。
―― 『サンディニスタ!』という大作に向かいますからね。
高橋 でも、今となっては、もしかしたらこの3曲が最高地点だったのかなという気はしています。あの最後の3曲がビートルズの「ジ・エンド」なのかなって。最後の3曲を考えてもアルバムの完成度は抜群ですね。本当にすごいと思います。それと同時に『ロンドン・コーリング』を通していろんな音楽のジャンルを知ることになりましたからね。ロカビリーもそうだしジャズもそうだしスカもレゲエも。
―― 「ラヴァーズ・ロック」みたいな曲も入っています。
高橋 「ラヴァーズ・ロック」なんかはグラムロックに近いかもしれないですね。『ロンドン・コーリング』はいろんなジャンルの音楽のエッセンスをグッと凝縮したアルバムでもあるので、どういうジャンルの音楽を好きな人が聴いても聴けるアルバムではありますね。
―― もはやパンクではないという声も聞かれました。
高橋 ところがクラッシュは2枚組のアルバムを1枚の値段で売ったのでもわかるように、自分たちのアティチュードとか行動でパンクを表すようになるんですよね。「パンクはスタイルを意味しない」(「Punk is attitude.Not style」)と書いてあるのはそういうことかなと思いますね。クラッシュのスタンスとか行動がパンクだから、サウンドがパンクから離れても全然OKというか。音楽的にはパンクよりも先に行っているけど、パンクロックであることには間違いないという。そうやってスタイルじゃないパンクになったのは『ロンドン・コーリング』からなんですよね。もうジャケットからして100点ですからね。普通だったら勝負の3作目でベーシストがジャケットってなかなかないと思うんです。それもパンクですよね。
―― 勝負作で2枚組というのも普通だったらありえないですよね。
高橋 そうなんですよ。しかも1枚の値段で売るなんて。だからあらゆる部分で文句をいわせないアルバムを作ろうと思ってたんじゃないかなと思いますね。3枚目に関しては作る前から4人ともそれぞれのビジョンが頭のなかにあったんじゃないかなと思うんですよ。「とにかくすごいアルバムを作ってすごい売り方をしようぜ」みたいな。マニック・ストリート・プリーチャーズが「全世界で1位を獲って解散する」っていってましたけど、ああいった行動の元祖みたいなものですよね。
―― 姿勢としては近いかもしれないですね。
高橋 「2枚組を1枚で売って世界で1位を獲ってやる」みたいな。そうはいってないんですけど、ああいうめちゃくちゃな姿勢を感じますね。
―― まさにロックンロールの名盤といっていいですよね。
高橋 そうですね。ロックンロールの名盤というのが当てはまるかもしれないですね。パンクの名盤というよりもね。パンクの名盤というと、ぼくはどうしても窮屈な感じがするので、ロックンロールの名盤といってくれたほうが「そうなんですよ!」といいやすいです。同時にパンクという言葉のイメージを広げたアルバムでもありますよね。「パンクってすごいな」という。「一概にパンクといってもこんなのがあるんだ?」という。
―― ただすべての人がそういう感覚ではなかったんですよね。
高橋 このアルバムで離れたパンクファンもすごく多いと思います。当時、パンクがめちゃくちゃ好きだった人に「『ロンドン・コーリング』はつまらなくて聴けない」といわれましたからね。たしかに1枚目を聴いていた人が「ジミー・ジャズ」を聴いて「退屈でしょうがない」というのもわからないでもないんですよ。だけどあの「ジミー・ジャズ」を前半にもってくるセンスが最高なんですよね。
―― そうなんですよね。かっこいいですよね。
高橋 普通もってこないですよ、勝負の3枚目のアルバムで。A面には絶対にもってこないと思う。そこがやっぱり自信作ならではというか、「アルバムとして聴いてくれ」という意志がすごく感じられるというか。そのアルバムのラスト3曲のすごみときたら……
―― けっきょくそこに行き着きますか(笑)。
高橋 道半ばでクラッシュは『アビイ・ロード』をやっちゃったっていうね。
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■ 4th Album『サンディニスタ!』(Sandinista!)
1980年12月12日英国リリース(3枚組)
収録曲:(Disc1)1.7人の偉人/2.ヒッツヴィル U.K./3.ジャンコ/4.イワンがG.I.ジョーに会う時/5.政府の指導者/6.老いたイングランド/7.叛乱ワルツ/8.ルック・ヒア/9.歪んだビート/10.誰かが殺された/11.ワン・モア・タイム/12.ワン・モア・ダブ (Disc2)1.ライトニング・ストライクス(電光一閃!おんぼろニューヨークを直撃)/2.ロンドン塔/3.コーナー・ソウル/4.レッツ・ゴー・クレイジー/5.もしも音楽が語ることができるなら/6.ザ・サウンド・オブ・ザ・シナーズ/7.ポリス・オン・マイ・バック/8.ミッドナイト・ログ/9.平等/10.ザ・コール・アップ/11.サンディニスタ!(ワシントンの銃弾)/12.ブロードウェイ (Disc3)1.ルーズ・ディス・スキン/2.チャーリー・ドント・サーフ(ナパーム弾の星)/3.メンズフォース・ヒル/4.ジャンキー・スリップ/5.キングストン・アドヴァイス/6.ストリート・パレード/7.ヴァージョン・シティ列車/8.リヴィング・イン・フェイム/9.シリコン・オン・サファイア/10.ヴァージョン・パードナー/11.出世のチャンス/12.シェパーズ・ディライト
―― 『サンディニスタ!』は2枚組どころか3枚組になりました。
高橋 ぼくらが思っている以上にレコード会社からクラッシュは期待されていたのかもしれないですね。普通3枚組を出したいといっても「無理です」といわれるのが当たり前ですからね。しかも値段を安く売るなんてことはさらに無理なことじゃないですか。ぼくがレコード会社の社員でも3枚組には「NO」を出しますよ。
―― それをやってしまったんですからね。
高橋 『ロンドン・コーリング』がよっぽど売れたんだろうなと思うんですよ。売れたものの強みというか。そういう意味ではクラッシュはやりたいことをやるために頑張ってきたんだなという気がしますね。やりたいことを実現させるために目の前の作品を頑張ってきたというか。
―― 『サンディニスタ!』は36曲入りです。
高橋 アルバムを全部通して聴いたら「これ、曲を削って2枚組でいいんじゃない?」っていう人もいると思うんですよ。ぼくは好きだから6面全部聴きますけど、普通だったら4面(2枚組)でいいですよね。それを通してしまうメンバーの情熱はすごいと思うんです。『サンディニスタ!』を出したときのクラッシュは情熱で世界を動かしていたというのは間違いないですよね。
―― ある意味でここがクラッシュのピークでもありました。
高橋 当時のクラッシュは自分たちがやりきれたかどうかというところで闘おうとしたんだと思います。それが『サンディニスタ!』だと思います。世間的な評価を気にするよりも自分たちがやったかやらなかったかが大事だったんじゃないですかね。たぶん『サンディニスタ!』をやったときに「俺たちはやったんだ!」という手応えはすごくあったんじゃないかと思いますね。これ以上やって駄目だったら音楽で世の中を変えられないよというぐらいの熱量をクラッシュはこのアルバムに注ぎ込んだんじゃないかなという気がするんです。コンセプトもそうだしタイトルもそうだしジャケットもそうだし。やれることはやったという作品ですよね。だから実質『サンディニスタ!』がラストアルバムなのかなと思ったりもします。音楽的な頂点であり、やりきった感ということを考えるとクラッシュは『サンディニスタ!』で解散しても全然おかしくはなかったんじゃないかと。それくらいの熱量はありますよね。
―― 次回作の『コンバット・ロック』では少しまた違う方向に進みますからね。
高橋 『コンバット・ロック』では正攻法でポップミュージックに切り込んでいくというふうに舵を変えたのかなとも思うんですよね。もちろん『コンバット・ロック』っていうタイトルもジャケットの雰囲気も闘う感じは出てるんだけど、『サンディニスタ!』とは違うポップのエッセンスがありますからね。本来だったら『サンディニスタ!』で突き抜けてもおかしくはなかったんだけど、結果的にはちょっとマニアックすぎちゃいましたよね。それで少し達観してしまったのかなと思うんですよね。音楽で世界を変えるのは難しいなと思ったというか。ある意味、敗北宣言というか。だからちょっと切なくもあるというか。例えばアメリカで売れようと思ったらアルバムも1枚にしないといけないし、音も『動乱』のようにしないといけないし、ダブとかもいらないし。10曲入りぐらいの『サンディニスタ!』にしないといけないですよね。それを考えたときに、よりもっとポピュラーな、ポップミュージックとしてメッセージを広げていったほうがいいんじゃないかということを肌感覚で感じた上での『コンバット・ロック』だったり「ロック・ザ・カスバ」だったりするのかなと思うんですよ。
―― あえて『サンディニスタ!』を選択したのがクラッシュらしさでもありますからね。
高橋 ファンからすると今でも「3枚組でありがとう!」という気持ちになるんですよ。クラッシュの全力を見られてよかったという。クラッシュが全部注いだ姿を見られて本当によかったなとぼくは思うんですよね。何をいわれようと全力で4人でやろうという、その結果があの賛否両論の3枚組だったと思います。
―― そう考えると美しいアルバムでもありますね。
高橋 めちゃくちゃ美しい。歳を重ねてからぼくが『サンディニスタ!』を好きになった理由もそこにあると思うんですよ。
―― 高橋さんもいろんなバンドを経験しているわけで、その経験に立つと、このアルバムの見え方は違ってきますよね。
高橋 そうなんです。本当に一生に一度このアルバムを作れただけでもバンドマン冥利に尽きると思います。たぶん世の中のロックバンドの99%は『サンディニスタ!』を作れませんよ。例えば全盛期のオアシスでも3枚組を出したいといっても、たぶんレコード会社に断られてたと思うんですよ。それ以前に駄曲だろうが何だろうが、その当時あった曲を全部入れるっていうことはできないと思うんですよ。
―― それをクラッシュはやったわけですからね。
高橋 だから『サンディニスタ!』のアウトテイクや未発表の曲ってあまりないんですよ。なんでないのかというと全部入れちゃったからだと思うんです。『サンディニスタ!』も40周年記念盤が出るという話があったのにけっきょく出なかった。もしかしたら全部アルバムに入れちゃったから未発表曲のストックがなかったんじゃないですかね。レアトラックも全部アルバムに入れたからじゃないかなと。本来ならアルバムから外されてレアトラックになりそうな曲が『サンディニスタ!』にはいっぱい入ってるじゃないですか。「この曲、なんで入れたんだろう?」っていう曲も全部入れちゃってますからね。
―― アルバムを聴いてるとちょっと躓くところがありますからね(笑)。
高橋 あって当然ですよ。こんなぼくでも「この曲、ちょっと飛ばそうかな」って思うことがありますからね。だからレアトラックも存在しないのかなと。
―― 他のアルバムのレアトラックはけっこうあったりするんですか?
高橋 例えば『コンバット・ロック』なんかめちゃくちゃありますね。レアトラックだけでアルバムが作れるくらいに。実際、ブートレッグ(海賊盤)が出てるんですよ。『ロンドン・コーリング』も記念盤が出たときには1枚丸々アウトテイクやリハテイクの音源がありましたからね。そう考えると、もしかしたらリハの音源も正式な楽曲として収録されている可能性もあるなと。アルバムに入れるつもりはなくてとりあえず録っておいた音源も入れたんじゃないかと思うんですよ。
―― 当時のクラッシュのすべてが余すことなくここに入っているんですね。ファーストアルバムに『THE CLASH』とつけていなかったら『サンディニスタ!』が『THE CLASH』というタイトルだったかもしれませんね。
高橋 今、めちゃくちゃいいこといってますよ。本当にそうだと思う。『サンディニスタ!』のタイトルはまさに『THE CLASH』でいいと思いますね。
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© 2023 DONUT
■ DONUT 14 表紙:甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)
高橋浩司の貴重なクラッシュ・コレクションを掲載!
2023年2月22日リリース A4 80p 1320円(本体1200円+消費税10%)
ザ・クロマニヨンズの新作『MOUNTAIN BANANA』インタビューに加え、甲本ヒロトが自宅のレコード棚からアナログ盤を持ってくるインタビュー第2弾を掲載/ザ・クロマニヨンズ写真展で全国を巡回し写真集をリリースした柴田恵理が撮影/第2特集は高橋浩司(HARISS/ex.PEALOUT)の貴重なザ・クラッシュ・コレクションを公開/ウィルコ・ジョンソンの「ロックンロールが降ってきた日」を再掲/WHO’S NEXTにはタカイリョウ(the twenties)が登場/連載コラム:歌王子あび(VERANPARADE)、カタヤマヒロキ(KTYM)、中野ミホ、ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)、タカイリョウ(the twenties)/I LIKE THIS MUSIC:SULLIVAN's FUN CLUB、エルモア・スコッティーズ、NITRODAY、THEティバ、Johnnivan、 Glimpse Group/編集部の2022年下半期プレイリスト/編集部コラム:『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』、『ワンピース』考察/綴込付録:甲本ヒロト描き下ろし「みんなとドラゴン」ポストカード
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