2023.2.22 upload
DONUT 14〜THE CLASH MANIA 高橋浩司コレクション 連動企画
DONUT 14では高橋浩司(HARISS、ex.PEALOUT)によるザ・クラッシュのコレクションを中心に掲載し、インタビューではコレクションに至る経緯とジョー・ストラマーとの関係性を語ってもらった。一方、WEB DONUTではアルバムについてのインタビューを行った。テキスト中にSpotifyを埋め込み、即座に彼らの音楽にアクセスできるようにすることで、クラッシュのことをあまり知らない読者にも訴求すると考え、2つのインタビューを棲み分けることにした。つまりDONUT 14のザ・クラッシュの企画は2つのメディアでひとつの企画として完結する。アナログとデジタルのメディアミックスはDONUTとしては初の試みだが、2つのメディアを通してザ・クラッシュの音楽やアートワークを存分に楽しんでもらいたい。
●取材=森内淳
■ 1st Album『白い暴動』(The Clash)
1977年4月8日英国リリース
収録曲:1.ジェニー・ジョーンズ/2.リモート・コントロール/3.反アメリカ/4.白い暴動/5.憎悪・戦争/6.ワッツ・マイ・ネイム/7.否定/8.ロンドンは燃えている!/9.出世のチャンス/10.ぺテン/11.反逆ブルー/12.ポリスとコソ泥/13.48時間/14.ガレージランド
■ 1st Album『白い暴動』(The Clash)US盤
1979年7月23日米国リリース
収録曲:1 . CLASH CITY ROCKERS/2 . I'M SO BORED WITH THE U.S.A./3 . REMOTE CONTROL /4 . COMPLETE CONTROL/5 . WHITE RIOT/6 .(WHITE MAN) IN HAMMERSMITH PALAIS/7 . LONDON'S BURNING/8 . I FOUGHT THE LAW/9 . JANIE JONES/10 . CAREER OPPORTUNITIES/11 . WHAT'S MY NAME/12 . HATE & WAR/13 . POLICE & THIEVES/14 . JAIL GUITAR DOORS/15 . GARAGELAND
―― 高橋さんは『白い暴動』はUK盤ではなくUS盤のほうを愛聴したんですよね?
高橋 そうですね。回数でいったらUS盤の『白い暴動』を一番聴いたんじゃないですかね。
―― US盤の何が高橋少年の心に刺さったのでしょうか?
高橋 やっぱり楽曲ですかね。「ハマースミス宮殿の白人」と「クラッシュ・シティ・ロッカーズ」はUK盤には入ってないんですよ。
―― UK盤のほうがパンクらしいアルバムではありますが。
高橋 初期衝動のかたまりのアルバムですよね。短い曲が並んでいるのでパンクのアルバムとして初めて聴くにはUK盤のほうがいいんじゃないかと思います。あと「パンクって何?」「パンクとはどんな音楽?」「どんな楽曲をパンクっていうの?」といわれたときに、一番わかりやすいのはUK盤かなと。例えばラモーンズもパンクの代表バンドとして存在していますが、彼らはポップでパンクなんだけど反社会的なことを歌ってるわけではないですよね。あくまで楽しくやりたいっていう「FUN」というのが一番重要視されていますよね。クラッシュの場合は「RIOT」という言葉だったり、何かに対する抵抗とかアンチテーゼとか、そういう歌詞やジャケットアートもふくめて、一番わかりやすくパンクのイメージを伝えていると思います。
―― 高橋さんはセックス・ピストルズよりもクラッシュを評価していますよね?
高橋 「自分でも音楽ができるかも」って思わせたのがクラッシュだったんですよ。
―― DONUT 14のインタビューでもおっしゃってましたね。そこは重要なファクターなんですね?
高橋 たしかにクラッシュもピストルズに影響を受けたり、先人たちが始めたパンクシーンがあったからこそ誕生したバンドだとは思うんです。ラモーンズがイギリスに来たときに触発された部分も絶対にあると思うし。ところがセックス・ピストルズの音楽は演奏してみると意外と難しいんですよ。ああいう感じにはなるんだけど、なんかちょっと違うなってなる。誰でもできそうなんですけど、意外とギターソロがしっかりしていて楽曲の完成度も高かったりするんです。
―― なるほど。
高橋 その点、クラッシュはベースもアバウトだし、演奏自体もとっつきやすい。楽曲も短いし。ピストルズってあんまり楽曲が短くないんですよね。だから全世界的にミュージシャンへの門を開いたのはクラッシュの音楽なんじゃないかなと。ぼくもふくめこのアルバムで勇気づけられてミュージシャンになった人は多いんじゃないかな。それがクラッシュのファーストアルバムの最大の功績じゃないかなとも思うんですよね。
―― 高橋少年が惚れ込んだ「ハマースミス宮殿の白人」はすでにパンクというカテゴリーでは語れないレゲエナンバーですが、これはどう受けとめていたんですか?
高橋 パンクを聴こうと思って『白い暴動』を聴いたので、最初、戸惑いはあったんですよ。だけど最後には楽曲の良さでもっていかれましたね。クラッシュってパンク以外のジャンルの音楽に触れるきっかけでもあるんです。それによって、逆にパンクって奥が深いんだなって思わせてくれるというか。
―― それがUS盤の良さでもあるんですね。
高橋 だからストレートにパンクを聴きたければUK盤を、パンクの奥深さを知りたければUS盤を聴けばいいと思います。だから一概に「クラッシュのファーストいいよね」とはいえないんですよ。「パンクを聴きたいんならUK盤がいいよ」ってわざわざいわないといけない。UK盤とUS盤では曲順も印象も音質も違いますからね。「マニアだからUS盤だ、UK盤だっていうんだよね?」とかよくいわれるけどそうじゃないんですよ。まったく印象が違うんですよね。
―― そのUK盤にも「ポリスとコソ泥」というレゲエナンバーが入っていますよね。
高橋 そうなんですけど、同じレゲエでも「ポリスとコソ泥」は初期衝動のままレゲエをやっているんです。
―― なるほど。「ハマースミス宮殿の白人」とは違うわけですね。
高橋 「ハマースミス宮殿の白人」とはそもそもレコーディング時期も違うんですが、音質も違うんですよ。
―― UK盤が1977年、US盤が79年のリリースです。
高橋 レコーディングはもうちょっと前なんでしょうけど、やっぱりその2年間でいろんな音楽を聴いた上でレゲエを取り込んでいるからすごくリアリティがあるんですよね。つまり、ある程度、音楽をわかった上でトライしたのが「ハマースミス宮殿の白人」で、そうなるとやっぱりレゲエとして熟成されているんですよね。レゲエを真剣に取り組んだ上でトライしているのがわかる。もちろん初期衝動ということでいえば「ポリスとコソ泥」のほうがすごいですけどね。曲のクオリティでいったら「ハマースミス宮殿の白人」のほうが圧倒的にすごいなと思います。UK盤からUS盤の間にもすごい成長があるというね。だから最初にUS盤を聴いた人とUK盤を聴いた人ではまったくバンドの印象が違うんですよね。UK盤には名曲がたくさん入っているし、好きじゃなきゃいけないという強迫観念もあるし(笑)、初期衝動としての評価はあるけど、やっぱりUS盤を聴いちゃうと、音質も曲順もこっちのほうがいいなと思うんですよね。
―― 「ハマースミス宮殿の白人」と「クラッシュ・シティ・ロッカーズ」も入ってるし。
高橋 ぼく、けっきょく、そこなんですよね(笑)。「ハマースミス宮殿の白人」と「クラッシュ・シティ・ロッカーズ」が入っているのは大きいです。この2曲があるからぼくのなかではUS盤のファーストが最高なんですよ。クラッシュの楽曲のなかでも「クラッシュ・シティ・ロッカーズ」はすごく完成度の高い曲だと思うし。そういう意味ではクラッシュのファーストはほんと罪作りですよね。2種類のファーストが存在することで、聴いた人のクラッシュに対する印象が違うというのはね。
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■ 2nd Album『動乱(獣を野に放て)』(Give ‘Em Enough Rope)
1978年11月10日英国リリース
収録曲:1 .セイフ・ヨーロピアン・ホーム/2 .イングリッシュ・シヴィル・ウォー(英国内乱)/3 .トミー・ガン/4 .ジュリーはドラッグ・スクワッドで働いている/5 .ラスト・ギャング・イン・タウン/6 .屋根の上の殺し屋/7 .ドラッグ・スタビング・タイム/8 .ステイ・フリー/9 .ケチな野郎のスーパー・スター/10 .すべての若きパンクスども
―― 『動乱』はパンク路線を踏襲したアルバムになりました。
高橋 パンクを踏襲しながらハードロック色もあるという。
―― ギターが印象的なアルバムですよね?
高橋 ブルー・オイスター・カルトのプロデューサー(サンディ・パールマン)がプロデュースしてるんですよ。だからギターも歪んでいたりとか、ドラムが異様に太かったりとかするんです。
―― バンド側は何を意図してこういうサウンド・プロダクトにしたんでしょうね?
高橋 やっぱりアメリカで受けたかったんじゃないですかね。そこはぼくの邪推なんですけど、「反アメリカ」と歌っていても、アメリカでヒットが欲しかったんじゃないかなと。
―― 『動乱』は彼らにとってアメリカでのデビューアルバムですからね。
高橋 アメリカ人が聴きやすいような太い音になっていますよね。おそらくパンクバンドとしてだけじゃなくて、普通のロックバンドとしての評価というか、楽曲も音楽面もちゃんと評価してほしいと思っていたんじゃないかと思うんです。「ステイ・フリー」とか「トミー・ガン」といった名曲が入っているし、「セイフ・ヨーロピアン・ホーム」なんかはクラッシュの代表曲だし、アルバムのバランスでいったら一番いいのかなと思いますね。個人的にはファーストほどの思い入れはないんですけど、しっかりした作品になっていると思います。
―― ロックバンドとしてのファーストからの成長の跡は見られますよね。
高橋 ファーストは初期衝動で作って、次の『ロンドン・コーリング』ではジャズから何から好きな音楽をやっていますよね。セカンドはその間の過渡期というか、クラッシュとしてもどっちにいこうかっていう時期だったと思うんです。パンクで突き進んでいくのか、音楽的にも評価されたいのか、そのどちらかを決めようと思ったアルバムなんじゃないかなとも思いますね。
―― クラッシュは後者を選びました。
高橋 『動乱』は音質をアメリカ寄りにしたわりにはそこまで評価されなかったんです。だったら今度は自分たちの音楽的センスを全部注ぎ込んでみようということで『ロンドン・コーリング』という流れになったんじゃないかなと思うんですよね。ただ『動乱』である程度の注目を浴びた上での『ロンドン・コーリング』だったからよかったわけで、アメリカでの土壌を作ったこのアルバムがなければ『ロンドン・コーリング』もヒットはしなかったんじゃないかなと思うんです。
―― パンクロックのファンの間では『動乱』の評価は高いですよね?
高橋 「クラッシュはセカンドが最高!」という人が多いですね。「トミー・ガン」などアグレッシヴなクラッシュの側面が出た作品ですからね。音質よりもテンションが評価されているというか。10曲収録というのもわかりやすいし、アルバムとしての完成度も高いですよね。いい曲も入ってるし、パンクロックの代表曲「セイフ・ヨーロピアン・ホーム」も入っている。そういう意味では一番聴きやすいアルバムかもしれないですね。ただぼくとしてはハードロック色が強くなったなという印象があるので、そこは複雑なんですけどね。リズムが面白い曲もとくにないし。
―― そこはドラマーっぽい意見ですね。
高橋 だからたぶんミック・ジョーンズが主体となってプロデューサーと一緒に進めたんじゃないかなという気がするんですよね。ポール・シムノンなんかはこのアルバムにはほとんど貢献していないんじゃないかなと。『ロンドン・コーリング』になると俄然ポール・シムノン色が出てきますからね。
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© 2023 DONUT
■ DONUT 14 表紙:甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)
高橋浩司の貴重なクラッシュ・コレクションを掲載!
2023年2月22日リリース A4 80p 1320円(本体1200円+消費税10%)
ザ・クロマニヨンズの新作『MOUNTAIN BANANA』インタビューに加え、甲本ヒロトが自宅のレコード棚からアナログ盤を持ってくるインタビュー第2弾を掲載/ザ・クロマニヨンズ写真展で全国を巡回し写真集をリリースした柴田恵理が撮影/第2特集は高橋浩司(HARISS/ex.PEALOUT)の貴重なザ・クラッシュ・コレクションを公開/ウィルコ・ジョンソンの「ロックンロールが降ってきた日」を再掲/WHO’S NEXTにはタカイリョウ(the twenties)が登場/連載コラム:歌王子あび(VERANPARADE)、カタヤマヒロキ(KTYM)、中野ミホ、ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)、タカイリョウ(the twenties)/I LIKE THIS MUSIC:SULLIVAN's FUN CLUB、エルモア・スコッティーズ、NITRODAY、THEティバ、Johnnivan、 Glimpse Group/編集部の2022年下半期プレイリスト/編集部コラム:『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』、『ワンピース』考察/綴込付録:甲本ヒロト描き下ろし「みんなとドラゴン」ポストカード
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