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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第31回「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」

2023.01.24 upload


■ ジャン・コクトー映画祭・予告編

『美女と野獣』(4Kデジタルリマスター版)
原題:La Belle et la Bête
監督・脚本:ジャン・コクトー
原作:ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン
キャスト:ジャン・マレー/ジョゼット・デイ/ミラ・パレリ ほか
1946年:フランス
公式サイト:http://jcff.jp
※YEBISU GARDEN CINEMA での上映は終了。全国各地で順次上映予定あり。詳しくは公式サイトをご確認ください。


みなさま、こんにちは。
2023年始まりましたね。そしてもう1月が終わろうとしている……。
今年もマイペースに、好きな映画について書いていこうと思います、どうぞよろしくお願いします。
いつも読んでくださって、本当に感謝感謝です!

さて、今月はふと見つけてとてつもない引力を感じたこちらの作品を観に映画館へ行ってきました。
YEBISU GARDEN CINEMAでやっていた「没後60年 ジャン・コクトー映画祭」。
その中から『美女と野獣』です。

製作は1946年、フランス。監督・脚本は、詩人・劇作家・映画監督など多彩な活動で知られた芸術家ジャン・コクトー。
出演はジョゼット・デイ、そしてジャン・コクトーの公私にわたる長年のパートナーでもあったジャン・マレー。
撮影監督は後に『ローマの休日』『ベルリン・天使の詩』などを手がけるアンリ・アルカンが務めています。

元となっているのは1756年に出版されたボーモン夫人版の「美女と野獣」。
主人公のベルは美しく心優しい娘でしたが、2人の姉に妬まれ、虐げられながら暮らしていました。
ある嵐の夜、姉妹の父は森の奥へと迷い込み、不思議な古城にたどり着きます。
父がベルへの土産にしようと庭に咲いていた1輪のバラを摘み取ると野獣が現れ、バラを盗んだ代償として、命と引換えに娘を1人差し出すよう脅します。
父を助けるため自ら城へ行くことを望んだベルは、野獣の恐ろしい姿に怯えますが、次第にその純粋さに心ひかれていきます。

きっと皆さんに馴染み深いのはディズニーのものかと思います。
私も子どもの頃からディズニー映画が大好きで、その中でも『美女と野獣』は大人になってから観るとさらに泣ける、ロマンチックの最上級だと思っている一番好きな作品(音楽も最高)。
なのでその40年以上前に作られたモノクロの美女と野獣はどんなだろうとドキドキしながら鑑賞しました。

素晴らしかった……観に行って本当によかったです。
現実に戻りたくない、ずっと続いてほしいような魔法の世界でした。

まず冒頭でベルの姉たちが登場するシーンから、衣装がめちゃくちゃかわいい! なにこれ! と感動したのですが、それはまだまだ序の口、とにかくずっと洋服や美術が素晴らしかったです。
大きな襟に派手な帽子の姉たちの出立ちもかわいいのですが、屋敷に入ってからのベルのドレスがどれも素敵すぎました。
胸元がとても美しくて印象的。黒の宝石がついたようなもの、淡い色の薄いレースやチュールを重ねたようなもの、大きな袖のしっかりしたドレス、全部じっくり見たかった!
長い髪の編まれ方も毎回違っていて、なんてきれいなんだろうと感動しました。
彼女が乗る白馬のたてがみまでキラキラしていてキュン。

野獣の住む屋敷にはベルの父が初めに足を踏み入れるのですが、入口の先の廊下で謎の手に持たれた燭台の蝋燭が一つずつ灯っていくところ、それまでとは明らかに変わって、音のない不思議な世界にドキッとします。
そしてベルが同じく初めて屋敷を訪れるシーン。
燭台の廊下を駆けていくスローモーションの場面は、思わず息をのむような美しさです。
生き物のようになびく白いカーテン、音もなく、時間もとまったようで、鳥肌が立ちました。
屋敷のシーンはほぼ夜?のような暗闇なのですが、その中に浮かび上がるテーブルの燭台や、食器や、部屋の装飾、宝石や花などどれもが完璧に美しく沈んでいるような感じでした。

そして、野獣です。なんと言っても野獣が良すぎるのです。
ちょっと固そうな、でも柔らかそうなモフっとした毛並み、ちょっとだけ動く小さめの耳、そしてあの瞳。
たくさんのキラキラがついたマントに手袋。見れば見るほど好きになる……。
彼のベルに対する言葉や気持ちがどうしようもなく切なくて泣けます。
「食事のときにお前を見てよいか?」ときいたり、ベルが手ですくって水を飲ませたときの表情……。
特に私がキュンときてしまったのは、ベルが彼の頭をなでたとき、「動物にするように私をさすっている」というとベルが「動物でしょう?」というところ。
野獣は目に涙を浮かべてとっても悲しそうな顔をするのです。
もうこのあたりから彼が愛おしくてたまらなく、すごく苦しかったです……。

そして父に会いたいと懇願するベルを一週間だけ家に帰すのですが、その帰り方がまた素敵。
このシーンを含め、逆再生を使ったシーンがいくつかあり印象的でした。
野獣の手に宝石が握られるところ、そしてラストの王子になるところ。
一瞬の時間のゆがみというか、沈黙がなんとも不思議な気持ちにさせます。

家に帰ったベルが父に野獣のことを話しながら涙をこぼす、その涙がダイヤモンドになるところもたまらなかったー。
野獣のことは「いい人よ」といっているだけなのに、彼の愛と苦しみが知らず知らず彼女に伝わっているような。
うっとりしすぎて泣きそうになりました……。
野獣のアップは本当になんか泣けたなぁ。言葉ではうまく説明できないけれど、とにかく全てがキラキラと美しくて、悲しくて、胸がつまるような映像でした。

そして肝心の王子になるところなんですが……ある記事によると、この場面を見たグレタ・ガルボは、スクリーンに向かって「私の野獣を返して!」と叫んだ。
またマレーネ・ディートリヒは、「私の野獣はどこ?」と尋ねている。と。そう、この感じとてもわかる……!
ディズニーの『美女と野獣』を観たときとは全く違うこのラストシーンに対する気持ち。
ベルは野獣のことを愛していたんじゃないのかしら、王子の姿になってもあんまりピンときてない感じがして、そして何よりあのかわいい、誰よりも素敵な野獣がもういなくなってしまったということがなんともさみしく、絶妙な気持ちになる幕引き……。幸せになったのなら良いのかな。
公開当時も観客から抗議の手紙が多数寄せられたそうです。笑
それだけ野獣が魅力的だったのよね。

なんかもう全体的に魔法がかかっていて、モノクロで暗いのに全てがキラキラしていて、とんでもない宝物のような映画でした。
これから何度でも観たいし、ずっと大好きだろうなぁ。はぁ素敵。
やっぱり映画っていいなぁと改めて思いました。
機会があればぜひ、この魔法を体験してみてくださいね。

それではまたー。


© 2023 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

INFORMATION


1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

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